EVENT REPORT

都会の高層ビルで伊藤東凌氏の瞑想、岩本涼氏の茶の湯。ビジネスパーソンのクリエイティビティを刺激する「CULTURE-PRENEURS SPECIAL NIGHT in YNK」

2024.12.12

11月7日の夕方、京橋駅直結の高層ビル「東京スクエア・ガーデン」の一角でワーカー向けに茶の湯と瞑想体験が行われました。茶の湯や瞑想は、古来より日本で広く親しまれてきましたが、現代のビジネスパーソンの間でも、発想力やクリエイティビティを刺激する体験として注目されています。

茶席でもてなした岩本涼さんは茶道家であり、茶の湯文化を活かした商品開発やコンサルティングを行いグローバルにも展開する企業「TeaRoom」の若き経営者。一方、オフィスビルの1階を貫通する通路という特異な場所で行われた瞑想体験は、臨済宗建仁寺派両足院の副住職・伊藤東凌さんの指導のもと行われました。伊藤さんは、グローバルトップリーダーたちへの座禅瞑想の指導、アート展の開催、音声プラットフォーム「Voicy」でも人気を博すなど、国内外で注目されている禅宗の僧侶です。

 

ビジネス街の喧騒を遠くに聞きながら、静かにお茶を楽しむ

 

茶室協力:Tesera

 

茶席が催されたのは東京スクエアガーデン3階の屋外テラス。長い残暑が終わり、やっとさわやかな秋の空気を感じられるようになった11月上旬。イルミネーションで彩られたテラスと高層ビルを背景にキューブ型の茶室が登場、都会と文化が交差する茶の湯の空間がつくり出されました。

 

 

 

通りを行き来する車の音が遠くに聞こえるこの環境、屋外でお茶を点てて楽しむ「野点(のだて)」の都会版とも言えそうです。岩本さんはゲストの方々との会話を楽しみながら、まさに「調和」というお茶の精神を体現する異空間を生み出しました。

 

高層ビルの狭間で座禅を組み瞑想の世界へ

 

その後、1階の貫通通路では、伊藤東凌氏による座禅瞑想が行われました。座禅瞑想とは、自分と自然、そして周囲との関係性を反映するものであるとのこと。手の動きや位置、姿勢について細やかな指導を受けながら、深淵な世界へと導かれていきました。

 

 

高層ビルの狭間で鐘の澄んだ音色が響き渡るなか、まるで時が止まったかのような厳粛な雰囲気に。この体験を通じて自らの感覚を取り戻す貴重なひとときとなりました。

 

 

 

参加者の一人、尾和恵美加さんに感想をお聞きしました。尾和さんは日本橋に拠点を置く株式会社Bulldozerの代表取締役運転手(CEO)です。

 

「高層ビルの中で茶の湯と瞑想と聞いて、まったく想像できなかったのですが、意外とナチュラルに楽しめました。仕事場でもない、自宅に戻って完全にくつろいでいるような状態でもない、その中間にある落ち着いた空間に違和感なく入り込んだ没入体験。また、このエリアは渋谷や新宿などと違って、高層ビル街でありながら独特な静けささえ感じられることにも改めて気づきました」(尾和恵美加さん)

 

 

カルチャープレナーたちが語る、八重洲、日本橋、京橋エリアの魅力とビジネスへのヒント

 

その後のトークセッションには岩本さんと伊藤さんに加え、モデレーターを務める佐宗邦威さん、山本奈未さんの4名のカルチャープレナーが登壇しました。

 

 

戦略デザインファーム「BIOTOPE」代表の佐宗邦威さんは、デザインとブランディングの専門知識を活かし、京都市の成長戦略推進アドバイザーとして、文化資産をどのようにビジネスに反映させるかという課題に取り組んでいます。この取り組みの過程でカルチャープレナーという言葉と概念が生まれたとのこと。山本さんは日本橋に本社を構える老舗企業「山本山」の代表取締役社長で十一代当主です。300年以上の歴史を持つ山本山はお茶と海苔の専門店で、1970年代から南北アメリカでもビジネスを展開しています。

 

 

「このエリアは、長い歴史の中で培った文化資産に再投資し続けている場所です。この再投資が地域の魅力を支え、老舗企業も革新企業も企業価値を高めていると思います。つまり、何も投資しないでその価値を享受する『フリーライド』をせず、常に投資して価値の維持・向上を図っているところが魅力だと思いますね」(岩本さん)

 

「日本橋には今も町内会があります。町内会の重鎮である『旦那』とのやりとりは大変なこともありますが(笑)、こうしたコミュニティが残っているのは素晴らしいこと。もう1つの特徴として、このエリアでは型にはまらない『粋』な発想を持ちカッコよくあろうとする意識が強い。また、モダンな高層ビルの隣に昭和風情の立ち飲み屋が並ぶこのエリアの魅力は、『カオス』や『パラレルワールド』と言う言葉で表現できますね」(山本さん)

 

 

「みんなが顔見知りで、仲間内で耳よりの情報を共有できるエリアだと思います。みんなで一緒にやろう!という精神に満ちていて、密度と熱量の高い『賑やか』さが魅力ではないでしょうか。また、街全体がゴミも無く『きれい』に維持されているのも印象的ですね」(伊藤さん)

 

次は佐宗さんの提案で、このエリアならではの取り組みや仕掛けについてブレインストーミングが行われました。

 

まず岩本さんからは、八重洲・日本橋・京橋、つまり東京駅周辺は、海外の人々にとっての日本への「入口と出口」であり、そのメリットを活かすべきという話が語られました。

 

「海外から日本に来た観光客は、ほとんどの人々が空港からまず東京駅へ、そこから地方を旅し、また東京駅に戻ってきます。そのメリットを活かし、訪れる人に対して日本文化にもっと気軽に触れられるタッチポイントを作ることが重要ではないでしょうか。僕は海外に行くと必ず抹茶ラテの美味しい作り方を聞かれますが、そこから茶の湯の世界に興味を持ってもらえればいいと考えています。お寿司も、職人が握る鮨屋と手頃な回転寿司が共存することで双方の価値が上がります。つまり、気軽に日本文化に触れられる機会を増やすことが重要。それによって、利益を得た企業はこの地域に再投資することで伝統を守る役目も果たす必要がありますね」(岩本さん)

 

 

この話に対して、ここが地元である山本さんからは「確かに外国人のゲストを気軽に連れて行って日本文化に触れてもらえる場所があまりない」という話が出ました。

 

「もっと文化体験ができる場所があれば良いのにと日頃から感じています。例えば、レコード屋さんのような感覚で浮世絵を扱うお店とか。観光客が増えて街が少し騒がしくなるかもしれませんが、観光客とここで働く人たちが共に楽しくなるようなビジネスや仕組みを町内会の皆さんと共創していきたいです」(山本さん)

 

また、僧侶である伊藤さんからは、「ちょっと一息ついて頭を休める場所がもっとあってもいい」という提案がありました。

 

「京都に比べ東京には禅の精神性を感じられる場所があまりないと感じます。日の出や日没を眺めるスペースを提供する新たなスタイルの小さなお店が実現できたら面白いのではないでしょうか」(伊藤さん)

 

 

こうした新しいアイデアと、八重洲、京橋、日本橋エリアに根付いた老舗企業が持つ真のブランド力と信用力、それらを融合させてどのようにビジネスを発信させていくかも今後の重要な課題となるでしょう。

 

同時に、八重洲・日本橋・京橋に存在する文化資産や豊かな人とのつながりは、働くビジネスパーソンにとっても、新しい価値になりそうです。参加者も今世界で注目されている豊かさの源泉によるインスピレーションと可能性を存分に感じた時間となりました。

 

取材・文/冨永真奈美

撮影/島村 緑