現代では再現不可能、高い技術で作られた明治時代の蒔絵や七宝を扱う「古美術あさひ」

2023.12.20

現代アートに工芸、古美術…、八重洲・日本橋・京橋エリアは知る人ぞ知るアートの宝庫。アートにも造詣の深いマドモアゼル・ユリアと一緒に、今日はどんなアートによりみちする?

連載第1回に訪れたのは、京橋・骨董通りのビルの一角に店を構える『古美術 あさひ』。ショーウィンドウには店の看板とも言える美しい蒔絵や七宝が飾られ、モダンな店内には江戸~明治時代にかけての工芸品が並びます。日本の工芸品の歴史から、蒔絵や七宝の楽しみ方まで、店主の藤城彰太郎さんにお話を聞きました。

ユリア:こんにちは。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

 

藤城さん:お願いします。どうぞ、まずはぜひ店内をぐるっと見てみてください。うちは江戸時代から明治にかけての蒔絵と七宝、薩摩焼(※)などを主に扱っています。

 

ユリア:きれいですね、思わず見入ってしまいます。

藤城:祖父の代から創業し引き継いできている店ですが、昭和の時代にはビートルズが来店して、かなりの金額を購入していったと聞いています。蒔絵は昔からヨーロッパの人に人気が高いんです。

ユリア:ヨーロッパの時計なども、芸術性が高く精密な技術を持った美術品として高く評価される土壌がありますから、日本の工芸品にも通じる価値観があるのかもしれませんね。

 

藤城:工芸品ってどこでも生まれるわけじゃなくて、長い文明があるところじゃないと生まれない。文明が続き安定した平和な生活が続いたところに工芸品って残るんですよね。

日本も戦争はありましたが、伝統工芸の技術がずっと継承されてきています。刀なら鍛冶屋とか、日本に来て包丁などを買い求める外国人が多いのはそういうことですね。

 

ユリア:蒔絵や七宝はコレクターの方が買い求めることが多いのでしょうか?

 

藤城:中には投資目的で買う方もいますけど、コレクターの方が多いです。お金の価値に換算するのではなく、この工芸品の本当の価値を理解して、大切に次世代に受け継いでもらうようにお話ししています。そもそも、蒔絵にしても七宝にしても、現代にはこれほどまでの技術を持った職人さんはいませんから。ここで扱っている商品の値段で、いま同じものを作れるかというと、難しいですね。

明治時代に輸入向けに作られた芸術性の高い華やかな工芸品

ユリア:どんな世代のお客様が来店されるのでしょうか?

 

藤城:工芸品はやはり見るだけでは本当の価値はわからないと思うんです。自分で購入してこそ…と思うんですよね。そうすると金銭的な面で、若い方にはなかなか手が出せないというのも正直なところです。

 

ユリア:それに、蒔絵などに描かれるモチーフは、それなりの教養がないと楽しめない気がします。教養を身につけてこそ本当の価値がわかるのではないかと…。

藤城:それはそうですね。例えばよく描かれる蓬莱山(ほうらいさん)のモチーフですが、昔の不老長寿の象徴とぱっと浮かぶのがなかなか初心者には難しい。私たちでも、商品を仕入れる際、何が描かれているのか、すぐにはわからないこともあります。本などで調べたり、たくさんの工芸品を見るなどして経験を積まないと。そうやって、絵柄を読み解いていくことも、楽しいものですよ。

 

ユリア:今日お店に展示されている中で藤城さんのお気に入りの一品はありますか?

 

藤城:こちらの薩摩焼の茶碗です。これはもう今では再現不可能だと思います。茶碗の内側を見てください。これだけ細かい絵柄をどうやって描いていたのか…。

 

ユリア:これはすごいですね。明治時代にはこういう華やかなものがたくさんありましたね。海外に向けて、こういった豪華絢爛な工芸品を多く生産していたのですよね。

藤城:明治の時代はこういった華やかで豪華な工芸品が競うように出てきて、だんだん絵柄も細かく、芸術性も高くなっていったわけですね。

 

ユリア:現代ではこれほどの技術を持った職人さんはいらっしゃらないということですね。

 

藤城:当時でも、工房に12歳くらいで入って、修行を重ねて17~18歳で職人として一人前になって、30歳くらいまでには引退していたらしいんですよ。

 

ユリア:そんな若さで!

 

藤城:電気も眼鏡もない時代だから30歳くらいで老眼は進んでいきますしね。そういう意味で、当時でもこういう仕事ができる職人さんは貴重。とにかく明治の工芸はもう再現不可能だと思います。

七宝はまず金属の薄い線で輪郭を作ってその中に釉薬を流し込んで焼き付けていくのですが、こちらのように細かい図柄をどうやって作ったんだろうと思いますよ。

 

ユリア:絵を描くのとはまた全然違うんですね。

見た目は派手ではなくても、ユニークなモチーフに惹かれます

藤城:ユリアさんが気になる商品はありますか?

 

ユリア:あちらの箱はなにを入れるためのものですか?

 

藤城:これは印籠箪笥といって、印籠を入れるための箱です。集めた印籠をしまっておく場所として、お客様からたまにこういった印籠箪笥が欲しいと言われるんです。

 

ユリア:その気持ちはすごく分かります!私は帯留を集めているんですが帯留を入れる何か素敵な箱が欲しいっていつも思っているんです。こんな素敵な箪笥の中にコレクションできたらすごく嬉しくなると思います。

ユリア:印籠も色々な形やデザインがあるんですね。私はこの図柄が好きです。

 

藤城:江戸時代は質素倹約な時代だったから、見た目は地味だけど、変わったモチーフだったり、贅沢に作られたものが多いです。

ユリア:鮭と羽子板のモチーフが個性的でいいですね。着物を着たときにつけたいです。

 

藤城:描かれているモチーフが全てお正月なんですよ。これはもうお正月にしか使えないぜいたくなものなんです。僕も今ある印籠ではそれが一番好きですね。渋くて味がある。

 

ユリア:私も帯留や着物でも帯でも選ぶときにちょっと変わっていたり、面白いモチーフを好みます。付けられる時期が限定されていたり、動物に心惹かれることが多いです。渋い土台に鮭と羽子板って面白い。お正月だと、おめでたくて金キラになりそうですが、あえて渋くいくっていうのもかっこいいなって思います。

 

藤城:今日ここにいらして、印籠が好きってなってくれただけでも良かったです。蒔絵の技術や美しさが一番凝縮しているのが印籠ですから。

YULIAから今日のひと言

貴重な工芸品を扱う古美術あさひさん。店主の藤城さんとはお話が弾み、とても楽しい時間を過ごすことができました。藤城さんのおっしゃる通り、全く工芸品を知らないで観賞するより、やはり少しでも素養がある方が一段と楽しめそうです。

和の美術品や工芸品に使われるモチーフは共通していますので、日本画でも、器や蒔絵、お着物でも良いので、何かひとつでもハマると全て楽しめるようになると思います!

 

※蒔絵…器の表面に漆で絵や文様を描き、漆が固まらないうちに蒔絵粉(金・銀などの金属粉)を蒔いて表面に付着させる漆工芸の技法。

※七宝…金属にガラス質の釉薬を焼き付けて装飾する技法。

※薩摩焼…400年ほど前から鹿児島県で生産されている陶磁器。白薩摩と黒薩摩があり、白薩摩は色鮮やかな絵付が特徴。

 

衣装協力:DESTREE

トップス 85,800円

パンツ 72.600円

(問い合わせ:IZA 0120-135-015)

 

 

撮影/山仲竜也

ライター/YUCO

 

 

  • 古美術あさひ

    住所:東京都中央区京橋2-9-9ASビル1階

    電話番号:03-6228-7474

    定休日:日曜・祝日

    営業時間:11:00〜17:00

マドモアゼル・ユリア
DJ/きものスタイリスト

10代からDJ兼シンガーとして活動を開始。DJのほか、きもののスタイリングや着物教室の主催、コラム執筆など、東京を拠点に世界各地で幅広く活動中。YouTubeチャンネル「ゆりあの部屋」は毎週配信。

「ゆりあの部屋」:@melleyulia

Instagram:@mademoiselle_yulia

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