隔月刊誌・オズマガジンは、〈顔をあげて街を歩けば、小さな幸せあちこちに。〉をコンセプトに、毎号“いい1日”のための街歩き情報をお届けしています。本連載では、日々小さな幸せを探し歩くオズマガジン編集長が、長年事務所を構えるホームタウンの八重洲・日本橋・京橋で見つけた『小さな幸せ』について紹介します。
残業続きの週も終わりの金曜日。事務所のあるビルから外へ出ると、夜の京橋は人も車も減って静か。一週間を終えた疲れと開放感に包まれながら、暗くなったビル街を駅へと向かう。そんなとき宝町駅の入り口横に「らぁ麺ゆかり」の明かりをみつけると、ついふらふらと吸い込まれてしまうのだ。

宝町駅A5出口横にある「らぁ麺ゆかり」
オフィス街の京橋で夜にひとりでさくっと食事できるお店はありがたい存在。工事中のときからどんなお店ができるのかと気になっていたが、ラーメン屋さんだとわかったときはとても嬉しかった。

入ってみてさらに幸せを感じたのが、白と木を基調とした店内の明るい雰囲気と、女性中心のスタッフさんの細やかな気配り。女性ひとりでも気軽に訪れられるラーメン屋さんなのだ。そしてBGMは2000年代J-POP。中高生時代によく聴いていた音楽がさっきまでの仕事を忘れさせてくれて、なんだかほっとする。
以前は金曜のみ深夜営業されていたので終電前にラーメンにありついたり、ラストオーダー&閉店の22時ぎりぎりに滑り込ませてもらったり。へとへとで空きっ腹を抱えた心細さを、このお店の温かな一杯に何度も救ってもらった。
その一方で、いつも若いスタッフさんが和気藹々と働いていて提供されるラーメンはすごく完成度が高いので、一体どんなふうに運営されているんだろう?と気にもなっていた。今回の取材でそのあたりも伺えるのが楽しみだ。


店内に入って、まずは食券を購入。特製醤油らぁ麺や2種類のつけ麺も魅力的だけれど、単一素材系ラーメンが好きな私がいつも選ぶのは、鶏ガラスープがベースの特製鶏白湯塩らぁ麺。いちばん人気のメニューでもあるのだそう。

特製鶏白湯塩らぁ麺1200円
待つことしばし。店長の野崎さんが白湯塩らぁ麺を運んできてくれると、自然と笑顔になる。そうそう、この一杯が食べたかった! きれいな盛り付けにも気分が高まる。
早速いただきます! まずは麺をひとくち。コシのある細麺にとろりとした鶏白湯スープがからんで、口いっぱいに広がるまろやかで濃厚なうまみに思わず目を細めてしまう。

チャーシューが2種類入っているのもお気に入りポイント。「豚肩ロースの塊肉と国産鶏胸肉をお店で低温調理しています。軟らかで臭みもないと好評なんですよ」と野崎さん。なるほど、それでこんなにしっとり軟らかなのかと納得。

鶏胸肉のチャーシュー。あっさりなのにジューシーで、スープをからめて味わうといっそう美味
店頭にも書いてあるように、こちらは新宿に本店を持つ人気店「らぁ麺はやし田」が監修したお店。スープや麺は「はやし田」のものだが、チャーシューや味玉などの具材はお店で手作りしているのだそう。
鶏白湯塩らぁ麺のスープは、鶏ガラを長時間炊き上げたスープがベース。クリーミーで濃厚なのに重すぎず、後味すっきりなのが嬉しい。

鶏ガラをふんだんに使った鶏白湯スープはとろとろでポタージュのよう
麺はラーメン通にはよく知られる「菅野製麺所」の特製。メニューによって使う麺を変えているそうで、鶏白湯塩らぁ麺にはコシとしなやかさ、甘みが特徴の細麺を使用。のど越しがよくてつるつるいただけるのでぺろりと完食してしまう。

左が鶏白湯塩らぁ麺の麺。右は醤油らぁ麺の麺で、全粒粉や石臼挽き粉の風味が特徴


「麺線」をきれいに揃えて盛り付ける技にほれぼれ
鮮やかな手さばきでラーメンを盛り付ける野崎さん。やはりラーメンが好きでこの仕事に就いたのかと思いきや、「ラーメンも好きなんですけど、元は飲食店を開きたいというのがきっかけなんです」という。

店長の野崎さん
飲食店の立ち上げや運営を学ぼうと、都内で台湾まぜそば「麺屋こころ」などをフランチャイズ展開する企業にアルバイトで入社。新規出店のたびに現場に入って経験を積む中で、自分の店を持つ夢を上司に伝えていたところ「らぁ麺ゆかり」を立ち上げから任せてもらえることになったのだそう。
「当初は妹も働いていたので、私の名前の“ゆうり”と妹の“あかり”を合わせて店名に。いい縁(ゆかり)が生まれるラーメンになったらいいなという願いも込めて、2024年4月にオープンしました」と野崎さん。ずっと「ゆかり」さんのお店なのかと思っていたのだが、そういうことだったのか!
もうひとつ気になっていたのが店内のイラスト。この愛らしく親しみやすい絵柄も居心地のよさにつながっていると思う。

左の女の子のイラストはオープン時からあったので、この子がゆかりさん?と思っていた

こちらのイラストは最近加わったもの
「これは系列の『麺屋こころ』の美大卒のスタッフが描いてくれたものなんですが、かわいいのでこちらでも使わせてもらってるんです。ちなみに今着ているTシャツのイラストは私の高校時代の同級生が描いてくれたものなんですよ」

スタッフTシャツのバックプリント。「ゆかり」の文字の乗せ方がさりげなくて素敵!
あらためて店内を見回していると、見覚えのあるロゴを発見。『オズマガジン』でもご紹介させてもらったことのある八丁堀の「食堂swings」のショップカードだ。カジュアルで美味しいイタリアン食堂で、スタッフさんの優しさも印象に残っている。そういえば「swings」にも「らぁ麺ゆかり」のショップカードが置いてあったっけ。

一番下の赤いロゴが「食堂swings」のショップカード
「実は『swings』も系列店なんです。『麺屋こころ』時代にきょうだいでお世話になった上司が今はそちらで働いているので、うちを閉店した後に手伝いに行ったりも」と野崎さん。そんなつながりがあったとは! いろいろなお店を取材させていただく中で、こういうお店同士のつながりを発見できるのも小さな幸せのひとつかもしれない。
それにしても22時まで仕事した後にさらに働くなんてすごい!と取材陣みんなで驚いていると、「お客さんとお話しするのが好きで」と野崎さんはにっこり。「この店はお昼だけで100名くらいご来店されますが、お昼休憩中の方が多いのでゆっくり話せる機会はあまりなくて。でも元はといえばサービスが好きで、前職のブライダル業界や今の飲食業界に入ったんです」

野崎さんはじめ若いスタッフさんたちが仲良くいきいき働く姿にも心和む
「ゆくゆくは、母が得意な手打ちうどんをメインとしたレストランを家族とともに開いて、前職の仲間たちとも一緒に働けたら」と野崎さんは目を輝かせる。オフィス街の真ん中にある小さなラーメン屋さんに、こんな温かな夢が詰まっていたなんて!
くたくたになった残業帰りも、「らぁ麺ゆかり」を訪れるとちょっと元気になれる。それはきっと美味しいラーメンの力だけではなく、この店に満ちる彼女たちの前向きなエネルギーを感じているからなのかもしれない。
撮影/嶋崎征弘
原稿/吉永美代
2024年4月より、スターツ出版『OZmagazine(オズマガジン)』編集長。「顔をあげて街を歩けば、小さな幸せがあちこちに」をメッセージに、カフェやパン、雑貨などを切り口に、その街ならではの魅力を発掘する“さんぽのプロ”。自称・パンと文具のマニア。(アイコン写真 撮影:那須野友暉)
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