ブラック企業だった時代も…。サイボウズの日本橋オフィス開設から10年、執行役員と若手社員の世代間対談

2024.08.15

大通りから一歩入れば、どこか庶民的な風情が感じられる八重洲・日本橋・京橋エリアで、気になるあの人のインフォーマルなつながりとは?

\今回話を聞いたのは/

  • サイボウズ株式会社
    人事本部長兼法務統制本部長

    中根弓佳さん

    2001年、サイボウズ株式会社入社。知財法務部門にて著作権訴訟対応や契約、M&A法務などを担い、その後、2014年に執行役員 事業支援本部長に就任。2019年1月より現職。同年9月よりプロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」の理事に就任(現職)。

  • サイボウズ株式会社
    人事本部環境デザイン部

    福田 豪さん

    2022年、サイボウズ株式会社入社。人事本部環境デザイン部所属。日本橋のオフィス運営や地域オフィスの設立プロジェクトを担当。プライベートでは3歳からヴァイオリンになじみ、社内イベントでその腕前を披露することも。

グループウェアの国内最大手であり「100人100通り」のマッチングを目指す会社として知られるサイボウズ株式会社。時短勤務や在宅勤務、副業OKなど、最近では日本でも広まってきた自由な働き方を2000年代後半から実現してきた会社だ。そう聞くと、社員同士のドライな関係性を想像してしまうが、そうではなかった。同社初の女性執行役員で入社24年目の中根弓佳さんと、その部下にあたる人事部の気鋭、入社3年目の福田豪さんの対談により、これまでのサイボウズの変遷を振り返ってもらった。

人と人が深くつながるためにはリアルなオフィスが必要という答えにいきついた

  • 中根

    サイボウズはもともと愛媛県松山市で創業した会社で、その後、大阪を経由して東京・水道橋に拠点を構えるようになったのは、豪くんもよく知ってますよね。

  • 福田

    はい。僕は今年で3年目なので、この日本橋に移転してからの入社ですが、オフィスの担当ということもあり過去の経緯については知っていました。

  • 中根

    水道橋のオフィスが手狭になって、日本橋へ移ってきたのは2015年。実はこの時、いろんな選択肢があったのですよね。移転先をどこにするかというのはもちろん、そもそもグループウェアを提供する会社としては、リアルなオフィスが本当に必要なのかどうかという議論もあって。

  • 福田

    そうですよね。グループウェアを全社で導入し、オンラインでも円滑にコミュニケーションがとれて業務ができる中で、オフィスの必要性が問われるのも想像がつきます。

  • 中根

    でも結局、人と人が深く繋がり関係性を構築するため、そしてより効果的に生産性高く働くためには、ヴァーチャルのオフィスだけでは不十分ということで、場所を探すことになって。そこで何より重視したのが、いろんな人たちがジョインできる場所、環境を維持する、ということだったんですよね。

  • 福田

    サイボウズには、子育てをしている人もいれば大学に通いながら働いている人もいるし、皆さん本当に多種多様な働き方を求めていますからね。

  • 中根

    そう。サイボウズをとにかく働きやすい会社にするためにはどうすればいいか、ずっと考え続けてきた私にとって、そういう人たちが今もこうして一緒に働いてくれているのは、嬉しい成果かも。

  • 福田

    ちなみに、10年前の移転の際に日本橋を選んだのはなぜですか?

  • 中根

    会社としてどんなチームを作っていきたいかを考えた時、理想は多様な人々が活躍して、それぞれが最大限のパワーを発揮できることですよね。だから、多様性を体現できる街がいいだろうというのが一番の理由かな。

  • 福田

    それが日本橋だったということですね。

  • 中根

    その通り。日本橋って、古くからの大手企業もあればスタートアップも多いしいわゆる老舗の会社さんもいる、日本人だけでなく外国人もたくさんいて、多様性を感じさせる街だったから。この街なら、私たちが人や情報のハブとして機能できるんじゃないか、そう感じたことが決め手。

託児所もあればキッチンもある、サイボウズの価値観が凝縮したオフィス

  • 福田

    僕はサイボウズについて、柔軟な働き方を実現している会社だというのは入社前から認識していたんですけど、いざこのオフィスに来たら最初はけっこう驚いたんです。そこら中に動物の人形が飾られていたり、子連れ出社して仕事のできる場所もあればキッチンもある。入社前は同じデスクがずらっと並んでいるオフィスをイメージしていたので、ここが自分の働く場所なんだ!って思いましたね。

  • 中根

    でしょう? それも多様な人材にジョインしてもらう環境作りを最優先したからこそ。本当はベテラン勢の間では「自分はリモートワークで十分」という声も多かったんだけど、むしろ若い世代から「やっぱりオフィスはほしいです」という意見が多数あって、それに後押しされて作ったオフィスでもあります。

  • 福田

    そうだと思います。一緒に働く方とのコミュニケーション面や先輩から業務を身近に学ぶ場としてもオフィスがあることがありがたいです。

  • 中根

    みんなでコミュニケーションしながら働いたほうが、ノウハウも共有しやすいし、刺激も得られますしね。

  • 福田

    それにしても、日本橋というのは本当に絶妙な場所ですよね。僕もわりと出張が多いので、すぐ東京駅に出られるこの場所は本当に便利。都内の主要なエリアにはどこにでもアクセスしやすいですし。

  • 中根

    同感。東京も羽田も近いから、日常的なハブとして世界中の仲間とここで集まることができるのも、やっぱりありがたいよね。そういった交通の便がいいということに加えて、都心でありながら春の桜がキレイというのも、日本橋ならでは!さすが五街道の起点。

  • 福田

    初夏に行われる山王祭も日本橋の名物ですよね。今年はたまたまタイミング良くお祭りをやっているそばを通る機会があったのですが、いつもの日本橋とは違って、江戸時代から続く文化を感じられて素敵でした。

  • 中根

    ああいう伝統的なお祭りは、他の地域ではなかなか見られないと思う。サイボウズには外国人の社員やパートナーさんも多いから、あのお祭りを見てもらったら喜んでくれるんじゃないかな…って思っているんです。

  • 福田

    それと飲食店も充実していますよね。でも僕はまだぜんぜん開拓できてなくて……。今後は、この地域の飲食店をもっと開拓したいです!

  • 中根

    社内にはキッチンもあるからね。仕事後に社内で飲んでいる人も結構いますよね。

  • 福田

    中根さんのおすすめのお店ってありますか?

  • 中根

    私がよく行くのは「ジジ&ババ」という洋食屋さん。美味しくておすすめだよ。株主総会のあとにスタッフで盛り上がったりしてる。

  • 福田

    僕の数少ないおすすめは、「本陣房 はなれ」といううどん屋さんです。日本橋らしい和の雰囲気で、出汁の利いたうどんはもちろん、最初に出てくるお茶まで美味しいんです。

    オフィスづくりでも働く人の五感に働きかけるというのは大事にしているのですが、様々な工夫が重なることでその場でしか感じられない特別感や満足感が生まれるものだな、とこのうどん屋さんからも実感しています。

多様な選択肢の中で働くには、自分の中に価値観や判断基準をしっかり持つこと

  • 福田

    昔はけっこうブラックな職場だったと噂では聞いてますが、それが働き方重視に変わったのはどういうきっかけだったんですか?

  • 中根

    当時はせっかく採用できてもすぐに辞めてしまう人が多かったんです。ちょうどその頃、ある女性社員が出産して。優秀な女性社員が出産を機に辞めてしまっては会社としても困るでしょ。だからそういう人を引き止めるために、短時間でも働ける制度を用意したのが、きっかけのひとつかも。

  • 福田

    働きたい人が無理なく仕事を続けられる環境を用意した、ということですね。

  • 中根

    そう。そのうち私自身も子どもを産んで、子育てをしながら働くことになり、選択肢がたくさんあることの大切さを身をもって知ったしね。

    ただ、自分の中にはっきりとした価値観や判断基準がなければ、単にゆるい会社、単なる働きやすいだけな会社になってしまうので注意しなければならないんだけど、ここが難しい! 個の自立がキー。企業理念、カルチャーとして掲げている自主自律の難しさと面白さですね。ワクワク働くために非常に大きな要素だと思っています。

  • 福田

    自主自律の部分は本当に難しく、厳しいと感じることもあります。多様な選択肢として与えられた自由に対してきちんと自分の責任を果たしていく必要がありますね。

    でもそうして人事制度を改善していただいたおかげで、僕は出勤前にジムに寄ったり、会社帰りにサウナでリフレッシュしたり、オンとオフをうまく切り替えられるいい働き方ができていますよ。

  • 中根

    あと、うちの子が小さい頃、子連れ出勤がOKになったのよ。それもありがたかったな。夏休み前に子どもたちを連れて出勤して、退勤後にそのまま羽田へ向かって帰省するようなことをよくやっていたっけ。

  • 福田

    周囲からすると、普段は仕事をしている姿しか見ない人がお母さんしてる姿を見るのは、会社では見えない一面が見えて親近感が湧きますしほっこりします(笑)。

  • 中根

    そうだよね。普段とは違った顔が見られるから。

    多様性ということで言えば、逆に子育てから学べることもあるんですよ。

  • 福田

    例えばどんなことでしょうか?

  • 中根

    人間は一人ひとり違う特性を持っていることを、自分の2人の子どもから改めて教えてもらうこともあったし、育児を通して知り合うママ友、パパ友は自分とは全く違う職業についている。普段仕事では知り合わない人がたくさん周りにいるわけで、そこからの気づきも多い。まさに多様性だよね。

  • 福田

    ママ友、パパ友とは結構つながりがあるんですか?

  • 中根

    地域コミュニティにも参加しているし、スポーツチームにも入っているし、つながりは深いかな。そういうところで知り合ったママ友パパ友たちにかなり助けれられてきましたよ。

    仕事とは違った一面という意味では、豪くんのバイオリンもそうですよね。この会社には、一芸を秘めている人が多いと思う。そういうこともこの会社の多様性なのかな…と思うな。

  • 福田

    はい、先日も創業記念のイベントで、ピアノが弾ける同期とこのオフィスで演奏させていただいて一生残る思い出になりました。

  • 中根

    あと広島オフィス開設の時にも、バイオリンを持って行って演奏してくれましたよね。そういった仕事とは違った一面を知ることで、コミュニケーションが円滑になる部分はあるよね。

  • 福田

    それでいうと、中根さんが多忙な中でB.LEAGUEの理事をやっていたりするのも、メンバーとしてはすごく刺激になっています。

  • 中根

    B.LEAGUEでは会社でこれまで培ってきた組織作りのノウハウがそのまま活かせるので、大好きなスポーツ界に貢献できたらと思っています。逆に、そうした社外の繋がりから得られるものも多く、それが仕事に役立つこともありますしね。

  • 福田

    素晴らしいですね。僕も音楽を通して得られたものを、いつか会社に還元できるようになれれば理想的です。この会社は仕事とは違う一面を持っている方が多いので、多方面で活躍されている姿を見るととても刺激になります。

  • 中根

    そうやって一人ひとりが個性を発揮して活躍できるのが理想だよね。これからもお互い頑張りましょう。

撮影:川しまゆうこ

Writer

友清 哲

フリーライター

主な著書に『日本クラフトビール紀行』(イースト・プレス)、『横濱麦酒物語』(有隣堂)、『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)、『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)ほか。文筆業の傍ら、東京・代官山でクラフトビール専門バー「ビビビ。」を運営中。