大通りから一歩入れば、どこか庶民的な風情が感じられる八重洲・日本橋・京橋エリアで、気になるあの人のインフォーマルなつながりとは?
\今回話を聞いたのは/
グラフィックアーティスト・ペインター
WOK22さん
福岡を拠点に活動中。雲や触手などのモチーフを通して、頭の中にあるポップでダークなイメージを様々な手法で表現する。adidasやSoftBank Hawks、PARCOなど企業とのコラボレーションも多数。
現代アートユニットwilquitous
フラワーアーティスト
安井竜樹さん
著名アーティストのMVやサイネージ映像、ファッションショーでのインスタレーションなど様々なシーンで活躍。フラワーアートアワード2018、2019で準グランプリを受賞。奇抜でインパクトのある植物表現で花の世界を演出する。フェラガモのイベントディスプレイや音楽イベントの装飾なども手がける。
現代アートユニットwilquitous
ビジュアルアーティスト
坪井隆寛さん
写真家・佐々木信行氏に師事し、2012年に独立。ハイブランドのクリエイティブなどを多数手掛けるほか「ClaudeMONET photo contest」で最優秀賞など受賞歴も多数。いきものがかり、三浦大知、打上花火/DAOKO×米津玄師のMVやライブ映像、ファッションブランド『DISCOVERD』『HELLY HANSEN』などのイメージ映像も手がけている。
八重洲・日本橋・京橋エリア各所で開催された花とアートのイベント「Meet with Flowers」が4月7日、1カ月弱の会期を終えて閉幕。参加アーティストは福岡を拠点に活動するグラフィックアーティスト・WOK22さん。そして、フラワーアーティスト安井竜樹さんとビジュアルアーティスト坪井隆寛さんによる現代アートユニット・wilquitous(ウィルキタス)だ。
イベントの終盤、WOK22さんがライブペインティングを行なっていた東京スクエアガーデンに集結し、制作直後のWOK22さんとwilquitousの2人による鼎談を決行。打ち上げも兼ねてまずビールで乾杯するところから始まった。
WOK22
今回の「Meet with Flowers」、いつもは福岡でやっている僕からすると、なんだかめちゃめちゃ面白かったんですよ。京橋って九州にはないタイプの超オフィス街なので。
安井
東京のど真ん中ですからね。
WOK22
ライブペイントしながら、こういう環境に自分がいること自体面白いなって思って。もっとも、本当にやりたいようにやらせていただいたのでおかしな緊張感はなかったですけど。
坪井
そうですね、僕らもやりたいようにやらせてもらいました。その分プロデューサーさんにはたくさん負荷がかかっているのかもしれないけど(笑)。
安井
楽しかったんだけどちょっとバタバタしすぎた感もあるんだよね。自分を追い込みすぎたというか。
坪井
ああ、最初は過去に制作した作品だけ展示する案もあったよね。
安井
そうそう。オフィスビルエントランスの壁面展示は坪井に任せていたんだけど、コロナ禍に撮影した写真を時間のない中で作品のレベルまで仕上げてくれて。そうなると、俺もフラワーインスタレーションを手がける際にギアが上がったし、テンションも上がった。いい相乗効果が出てそれがすごく楽しかったな。
坪井
僕は本来、平面構成が好きではないんだけど、だからこそチャレンジしているところがあって。さっきWOKさんのライブペインティングを見させてもらったんだけど、すごく興味深かったです。
WOK22
僕の手法はコラージュ的な組み立てというか、頭の中で素材をくっつけてレイヤーを重ねてバランスを取っていく感覚で描いているんです。
安井
なるほど。その意味では坪井がやってることと近いものがあるのかもしれない。
WOK22
僕も昔はフォトコラージュを結構やっていたので、思考は似ているかもですね。
坪井
ただ、僕らの場合は脳味噌が2人分あるから、それだけでも仕上がりがだいぶ変わってくる。
安井
映像やビジュアル作品の場合は本来、デザインとか見せ方だけを考えればいいんだろうけど、俺という存在がある分面倒なんだよね(笑)。俺が制作したフラワーアートをひとつひとつ撮影して、それを平面に落とす際に花という存在のクオリティを落とさない工夫をしないといけないから。
坪井
その意味では、僕にとって安井がクライアントみたいな立場に思えることはある(笑)。安井からどういう修正指示が入るか、いつも考えてます。
WOK22
ああ、「この花はこういう見せ方じゃないんだ!」みたいな。
安井
そもそも花が素材としていったん仕上がっているものである点も、ハードルがひとつ上がる要因だと思う。でも信頼関係があるから坪井がやることに疑いはないけど、俺がいることで坪井は自分のペースでやりきれずにいるかもと考えることはあるかな。
坪井
確かにそうかもしれないけど、安井が違和感を覚えるポイントというのは毎回ちゃんと説明してくれるから、結果として作品がどんどんいいものになっている実感はあるよ。
安井
もっとも、今回の「Meet with Flowers」にしてもそうだけど、いつも俺は自由に作っているし、それをどう撮るかなんて打ち合わせもしてないじゃない? 結局、互いが面白いと思えることを積み重ねていって、すべて終えたあとのゴールが気持ち良ければそれが俺たち2人の現時点でのベストだということだよね。
写真提供:Meet with Flowers実行委員会
WOK22
2人の作品を見ていると花という生のものを撮影して、それをコラージュしてというアナログからデジタルに作業が移行するやり方は、僕自身が本当にわからない領域なので楽しいんですよ。描くことと、花という素材を使って写真や映像にしていくのとではまったく違うので。
坪井
逆に僕はWOKさんの作品を見ていると、ペイントという手法がとても自由な感じがしていいなと思いますよ。
安井
WOKさんは頭の中で色彩や配置、線の太さ、色の濃さなんかを立体的に脳内でアレンジしながらやっているんだろうなと想像して、やっぱすげえなと思いますね。
写真提供:Meet with Flowers実行委員会
WOK22
ところで2人はどういう経緯で一緒に創作するようになったんですか?
坪井
僕らはもともと共通の知り合いを通して知り合ってこうしてユニットで活動しているんですけど、最初は好きな音楽の話で盛り上がったとか、その程度の接点から始まってるんですよ。最初に会ったのも飲み屋だったしね。
安井
うん、花と写真で業界も違うし本当に雑談からだったよね。でも、込み入った音楽の話題ができる相手ってなかなか出会えないし、話しているうちに「こいつセンスあるな」となったんだと思う。
坪井
そうだよね。たまたま地元も同じだけど、そんなことはどうでもいいくらい価値観が合致した。それが今から10年前くらい?
安井
覚えてないけどそのくらいかな。坪井はもうハイブランドの撮影なんかも手掛けていて、俺は俺でちょうどアートコンペで受賞したタイミングだった。そうしたらいきなりその展示を見に来てくれて、なぜかそのまま打ち上げまで一緒に行くことになったんだよ(笑)。
WOK22
そういう巡り合わせ、すごくうらやましいし横で見ていて楽しいですよ。普段は別々に活動しているんだけどグループ展感覚でやれるタイミングでは一緒にやる、みたいなの。
坪井
WOKさんはずっと1人でやってるんですか?
WOK22
誰かと組んでやることもあるけど、超ゆるくやってます。基本的には各々がやりたいことをやりつつ企画やタイミングによってたまに一緒にやる感じですね。
安井
うん、そのくらいの距離感いいですよね。
WOK22
目指すものや進む方向はそれぞれみんな違うと思うんですけど、どこかでたまたまガチッと合うことってあるじゃないですか。そういうタイミングって、相手とマインドがそろった時でもあるから、何かを一緒にやるにはちょうどいいんです。
安井
わかるなあ。漠然と「こういう仕事がやりたいな」と考えている時に本当にその手の仕事が誰かから飛び込んできたりすること、ありますもんね。人と一緒に組んでやるのは、そういう時でいいんだと思う。
WOK22
その結果コラボレーションによって自分の中にはなかった超面白いものができあがったら最高でしょ。wilquitousの作品を見ていても、創り方が僕とはまったく違うし、きっと2人の間でもそれぞれ違うんだと思う。だからこそ面白い。
安井
俺らも普段はまったく別々にやってますけど、“タイミング”はやっぱり大切にしたいんですよ。WOKさんもたぶん無意識にであっても常にそういう機会や材料を探してるでしょ?
WOK22
そうですね。実現できるかどうかは関係なくて「あの人とこんなことをやれたら、いい化学反応が起きるかも」みたいなことはずっと妄想してます。
安井
たとえば飲食店経営者が今この店に入ってきたら、席数や間取りからおおよその売上とか経営効率を自然に想像しちゃうと思うんですよ。それは職業病みたいなもので、俺らもずっとそういうアンテナは張ってます。
坪井
音楽もそうだよね。流れている曲をなんとなく聴いていて「これってリリックを先に書いたのかな、それともトラックが先なのかな」なんて、つい考えちゃう。
安井
あるある(笑)。あるいは「このフレーズを言いたいがための1曲だったのか」とか。
坪井
その意味では一番近いのはヒップホップかも。ラップは1人でもプロデューサーは曲によって全部違うことなんて普通にあるから。
WOK22
ありますね。だからシンガーがラッパーを自分の曲にフィーチャリングアーティストとして呼んだとすると、シンガーがクライアント側だとするならラッパーのほうが曲に寄せているのかな、とか。制作の裏側を想像してしまう。で、プロデューサーがそれをトラックメーカーにこうオーダーするんだろうな、とか(笑)。
坪井
でも誰かと一緒にやるならそのあたりの感覚が合う人と、自然に組みたいですよね。
WOK22
うん、コラボというとかしこまっちゃう人も多いからね。「試しにどうすか?」くらいのスタンスが僕はいいと思う。
安井
あまりコラボコラボ言い過ぎるのも萎える時があるな。もっと遊びの延長でやっていい気がする。
写真提供:Meet with Flowers実行委員会
安井
WOKさんは普段から企業との仕事も多いと思うけど、自身の作品と企業からの依頼で制作する作品とで、制作のスタンスやマインドは違う?
WOK22
特に自由度がなくなることもないし、ぜんぜん変わらないですよ。むしろ今回のように普段展示できないような場所に展示できたり、普段やれないことができたり。
坪井
僕らも同じで、クライアントワークだから資金があるので、やれることが増えますよね。
安井
俺らが東京の路上でやってきた「ゲリラガーデニング」に関しては、かなりできる場所が限られているわけだけど、スポンサーがつくことで普段絶対に許可が下りないような場所でできたりする。そういうの、今後もっとやっていきたいよね。
坪井
うん。許可と資金があれば、ちゃんとエンターテインメントにできるし。
WOK22
僕は大規模な展示ってあまりやってこなかったので、今回のイベントのキービジュアルや都市の余白を使った展示みたいに、不特定多数の前に出せる表現はこれからもっとやってみたいなと思いました。なるべく自分のテリトリーから外れたところで活動したい、とはいつも思ってます。
坪井
それもわかるなあ。
安井
この3人の中で相互にコラボするようなことも、そのうちあるかもね。
WOK22
いいですね、それはぜひやりたい。タイミングを模索しましょう。
撮影:川しまゆうこ
友清 哲
フリーライター
主な著書に『日本クラフトビール紀行』(イースト・プレス)、『横濱麦酒物語』(有隣堂)、『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)、『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)ほか。文筆業の傍ら、東京・代官山でクラフトビール専門バー「ビビビ。」を運営中。