味の素の新たなウェブサービス「未来献立(R)」。新規事業開発枠で初めて採用された若手社員のチャレンジ

2024.09.19

経済の中心地、八重洲・日本橋・京橋エリアの源流をつくったのは、江戸の発展を支えたクリエイティビティ溢れる町民たちだった。現代の町民たちが何を考え、どこへ向かっているのか、さまざまな領域で活躍するキーパーソンへのインタビュー。

“Y”ou “N”ever “K”now till you try

「味の素(R)」「CookDo(R)」「ほんだし(R)」など誰もが知るヒット商品を持つ一方、イノベーティブな取り組みにも積極的な企業、味の素。その本社は中央区京橋にある。2024年3月にスタートした献立提案ウェブサービス「未来献立(R)」を担当する若手社員、須藤琴音さんに話を聞いた。

\今回話を聞いたのは/

  • 味の素株式会社
    コーポレート本部
    R&B企画部 CXサービス開発グループ

    須藤琴音さん

    2001年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、2023年に味の素入社。大学時代は、社会心理学を学び、「どのように頼めば人に頼みを聞いてもらえるのか」を研究していたという。味の素には、2023年からスタートさせた新たな職種別採用枠「新事業開発」で入社。顧客起点を重視したサービス開発を手掛けている部署に配属され、ここで2024年3月にスタートした新しい献立提案ウェブサービス「未来献立(R)」チームの一員に。

     

    ▶︎「最近ハマっているのが、ゲーム。週末は『ピクミン』を黙々とやっています(笑)」

新卒社員を新事業開発担当として採用する思い切った取り組み

連結売上高は約1兆5000億円。1907年創業、日本を代表する老舗大企業、味の素。本社を京橋に構えるこの会社が、実は極めてイノベーティブでアグレッシブな会社であることは、関わった人や詳しく調べた人なら知っている。大胆な新商品開発、積極果敢な海外展開、研究への取り組み……。

 

そしてチャレンジは、事業だけではなかった。新卒採用も、思い切った取り組みが行われていた。営業、マーケティング、研究、DXといった職種別採用を行う企業は増えているが、そこに「新事業開発」という枠を2023年入社の制度に加えたのだ。そんな新事業開発枠で入社したのが、入社2年目の須藤琴音さんだ。

 

「多くの人を笑顔にしたい、という思いを軸にして就活をしていました。食品メーカーに興味を持ったのは、料理が得意な母の影響も大きかったんですが、味の素の新事業開発という採用枠には驚きましたし、なによりとてもワクワクしたんです」

実は採用プロセスも興味深いものだったという。どんな新事業をやってみたいか、学生が自ら提案する、というもの。須藤さんが出したのは、味の素のコーポレートキャラクター、「アジパンダ(R)」の形をしたスポーツジムを作ることだった。

 

「味の素は食と健康の課題解決を目指しています。であれば、健康のイメージをもっとアピールしてもいいのでは、と思ったんですね。『味の素スタジアム』などの社名を冠したスポーツ関連の施設はあったんですが、もっとわかりやすく、弊社のコーポレートキャラクターである『アジパンダ(R)』の形のスポーツジムを作るということを思いつきまして。赤と白を基調にしたカラーでドーンと。今から考えれば、あまりにストレートだったんですが(笑)」

そう謙遜する須藤さんだが、インタビューでは入社2年目とは思えない、澱みのない堂々とした受け応えぶりだった。そんなコミュニケーション力も評価されたに違いない。見事、新事業開発枠での採用が決まる。新事業開発枠の第1期として3人が採用されたという。そして入社後は本当に、新事業を手掛ける部署に配属になった。

 

「え、本当に新人でも新事業の担当をするんだ、と会社の大胆さに、実は私自身もびっくりしました(笑)」

 

配属になったR&B企画部のR&Bとは、リサーチ&ビジネスの略。研究でできた知見をビジネスに活かす、という意味が込められている。中でもCXサービスグループは、ウェブサービスを中心に、顧客起点のサービスを開発するグループだ。そこでOJTも兼ねて関わることになったのが、2024年3月にサービスが開始された新しい献立提案ウェブサービス「未来献立(R)」だった。

「入社してすぐにウェブサービスがリリースされるまでのプロセスを経験できたことは貴重でした。その中で驚いたのは、とにかく顧客の声をしっかり聞くんだな、ということでした」

 

新しいサービス開発の考え方は、生活者と一緒に作り上げていくこと。そこで、開発に協力してくれる人々を募り、「開発サポーター」が集まるコミュニティを作った。今では数百名にものぼる開発サポーターを取りまとめるコミュニティマネージャーの役割を委ねられたのが、須藤さんだった。

罪悪感のあるメニューを食べた翌日には「ツジツマあわせ」

コミュニティに参加している開発サポーターからは、サービスについて意見を募ったり、アイデアや感想を送ってもらったり、改善点を指摘してもらったり。本当に多くの協力を得ているという。

 

「みなさん本当に優しくて、詳細にお話を聞かせてくださる方が多いです。料理をめぐっての家族とのやりとりなど、実際に起きたリアルなエピソードを丁寧に書いてくださる方もいて、とても参考になります。そして、毎日の献立に悩んでいる人は本当に多いんだな、と改めて認識しました」

 

献立提案サービス「未来献立(R)」は、好きな食事を楽しみながらも、栄養バランスが整うように提案してくれるウェブサービスだ。ここで活用しているのが、味の素が開発した「JANPS(R)(Japan Nutrient Profiling System)」。栄養バランスの良い食を評価する新しい手法で、日本の食文化に適した栄養素プロファイリングシステムである。そもそも栄養素プロファイリングシステムとは、食品の栄養素をスコア化して評価するシステムで、WHOを含む世界中の研究機関や食品会社が開発を進めているもの。味の素が開発した「JANPS(R)」の特徴は、食材ではなく食事として調理される献立やメニューごとに栄養価値を評価してくれる点だ。

 

「健康寿命の延伸に関連する4つの栄養素、食材(野菜、タンパク質、飽和脂肪酸、塩分)に着目して、食品中に含まれる栄養成分の量を科学的な根拠に基づいてスコア化して評価することで、献立やメニューの栄養素評価指標としています」

 

味の素は、2017年から「JANPS(R)」の開発に取り組み、献立提案サービス「未来献立(R)」の構想を2020年から持っていた。背景にあったのは、食実態に関する生活者調査。料理への悩みとして最も多いのが、実は「献立が決まらないこと」だったのだ。それを解決するために開発されたのが「未来献立(R)」だった。

「献立づくりの悩みをもう少し掘り下げて調査してみると、家族の食の好みに合っている、栄養バランスが整っている、マンネリ感がないなど、多岐にわたる要素を満たした献立を一人で考えなければならないことが、献立づくりの難しさに繋がっていることがわかりました」

 

特に栄養バランスについては、気にはなるけれど自己流では自信がなかったり、毎日継続することが難しかったり、わかりやすく、楽しみながら続けることが難しいと感じている人が多いことがわかったという。

 

「こうした実態を受け、わかりやすく、楽しく栄養バランスを整えられるように、栄養バランスのツジツマあわせができる『ツジツマ献立』という機能を持たせたことが、『未来献立(R)』の大きな特色です」

 

「未来献立(R)」では、栄養バランスが考慮された「ゴールデン献立」を、味の素がこれまで蓄積してきた1万2600ものレシピを組み合わせて最大8日間分提案してくれる。ただし、全員が毎日栄養バランスの取れた食事を意識できるわけではない。日によってはお昼にがっつり外食をするかもしれないし、飲み会が入って締めにラーメンを食べてしまうことだってある。そんな時に活躍するのが「ツジツマ献立」機能だ。

 

「栄養バランスが気になる食事をとってしまった時、食べたメニューや食事の傾向を登録すると、栄養バランスを整えて(=ツジツマをあわせて)くれる『ツジツマ献立』を提案してくれるんです。ストイックに栄養バランスだけを気にして日々の食事をとるのでは食べる楽しみが半減してしまう。私たちはまず食事を楽しんでいただくことを第一に考えています」

顧客目線をとことん追求したからこそできたユニークな機能

ツジツマあわせというアイデアには驚いたが、それ以外にも生活者の声を反映したからこそできた機能がある。

 

「気に入った献立はお気に入りとして保存することができるのですが、そこに自分だけが見られるメモ書きを残すことができるんです。お気に入りに保存した理由や、その料理を作った時のエピソード、自分なりのアレンジなどを書き込んでおけます」

 

今は、コアな「未来献立(R)」ファンを増やせるよう、開発サポーターを募りながら、メンバーと共にこの「未来献立(R)」というサービスをさらに成長させていく段階だと語る。

「入社してみてわかったのは、味の素は生活者の目線をとても大事にする会社だということです。私の仕事ではお客様の声を直接聞くことがとても多いですし、ときにはコミュニティのメンバーの方にじっくりインタビューすることもあります。そのときに大事なのが信頼関係。まずは私がどんな人間なのかを知ってもらうことも重要なのではないかと考え、最近どんな料理を作ったかなど、日々の雑感やパーソナルな情報もコミュニティで発信しています」

 

新入社員として入社し、いきなり新事業開発に配属されたわけだが、日々直面する課題に、ひとつひとつ丁寧に取り組んでいる須藤さん。その背景には、上司や周囲の先輩の後押しも大きいと語る。

 

「手間や時間がかかることでも、手を動かせば解決するならやろうと背中を押してくれるんです。それに、会社全体として、もし失敗してもチャレンジしたことがその人の価値になるから応援するという考え方なんです。まだ大きなチャレンジはできていませんが、将来はコンセプトから考えて新しいサービスや製品を世の中に出したいと思っています」

お昼は社員食堂、会社の近くで美味しいお店を探すのも楽しい!

そんな須藤さん自身の食生活はどんなものなのかを聞いてみると、お昼はほとんど、社員食堂で食べる。さすが味の素の社食、充実しているのだそうだ。

 

「カレーや担々麺、フォーなど、とても本格的です。MyHealthランチという栄養バランスの取れた日替わりメニューがあって、私はそれを食べることも多いですね。好きな小鉢を選んでつけられるので、気づいたら小鉢をつけすぎてヘルシーじゃなくなっていることもありますけど(笑)」

飲食店の多い京橋周辺、ときには外食もする。時間に余裕があるときは八丁堀まで足を伸ばし、同期の上司に教えてもらったという有名店「やき鳥 宮川」でランチの唐揚げをいただくのが楽しみなのだそう。

 

「オフィスがあるこの場所は、少し歩けば八丁堀、銀座、日本橋など、いろいろなまちが近いので、歩きながら美味しそうなお店を見つけることもあります。会社帰りに気づいたら2駅分歩いていた…なんてこともあるんですよ。先日も通勤途中に見つけて気になっていた『八丁堀食堂』さんにランチを食べに行きました。ここで食べたのも唐揚げでした(笑)」

 

新事業開発という枠で初めて採用された新卒社員は、果たしてどんなキャリアを築いていくのか。この先がとても楽しみだ。

 

撮影/西田香織

Writer

上阪 徹

ブックライター

1966年、兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、ワールド、リクルートグループなどを経て、1994年にフリーランスとして独立。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに、雑誌や書籍、ウェブメディアなどで幅広く執筆を手がける。近著に『安いニッポンからワーホリ!』(東洋経済新報社)、『ブランディングという力』(プレジデント社)など。

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