八重洲・日本橋・京橋エリアには、衣食住や趣味・仕事まで本物を知るおとながたくさん。イラストレーターの佐々木千絵が、このまちの“粋”を体験するイラストエッセイ。第7回は八重洲の老舗、『割烹嶋村』で日々着物を粋に着こなしきりもりされてる加藤理亜さんのショッピングに同行。こぼれ落ちる”粋”を少しでも手に入れようと目と心をこらして行ってきました。
着物や浴衣、和装は日本の素晴らしい文化、わかっちゃいるけどなかなか日常生活に取り入れるのは難しい。しかし柄合わせのかわいさや芸術品のような着物、おしゃれな帯、日々絵を描くイラストレーターという職業柄、どうしたってその魅力にあらがえませんでした。
ちょうど理亜さんが現れた時の、初夏の光を含んだ銀座の柳に似た裏柳色の1 枚の着物。
聞くと自宅のタンスの中にあったもので、ひと目見て理亜さんは虜になったそう。
どうやらおばあさまがお店で仕事着として愛用していたらしいその一着、破れやシミや色褪せもありお直しが不可能な状態。しかしどうしてもその着物を着たい!と諦めきれない理亜さんは専門家をたどり完全リメイクをする方法を選ぶ。
小菊のような花が流れるようにあしらわれてるかわいいそのデザインは、職人さん曰く落款なども無く珍しい柄のため、約80 年前におしゃれなおばあさま自らがデザインされたものではないかとの事!
実物を見比べるとほぼ完全に再現されていて、受け継がれる想いがこもった一着に私もSさんも激しく胸を打たれる。
呉服屋さんというとどうしても身構えてしまいそうだったが、明るく入りやすい雰囲気の『銀座いち利本店』、銀座の柳の木を背景に颯爽と現れた素敵な理亜さんの後ろにくっついて入店。
目玉焼き柄のラフなシャツを着てきたことを一瞬反省。
この日接客してくれた阿久沢さんはモダンな着物の着こなしをされていて、竹柄の着物の中からシマエナガがこちらをを覗いているように見える半衿を合わせていて本当にオシャレ!
洋服は形で季節を感じるけど、着物は柄を組み合わせて季節を表現できる。改めてなんて粋なんだろう。
色々言う人は着物でも洋服でも言うもんね。
あまり深く考えずにずチャレンジしてみよう。
目の前で、粋で素敵な柄合わせの着物を浴びたらムクムクと自分も着てみたい欲が溢れ、私はこの取材の数日後、約30 年前に成人式で作ってもらった振袖を持って『銀座いち利』を再び訪れていた。
振袖を着ずにしまっておくより袖を切って着てみようではないか!
今現在、袖を切ってもらっている途中で、仕上がりは一ヶ月後くらいになるそう。
振袖をただカットするだけじゃなく、振袖の下の方に施されていた刺繍部分を上に持ってきてもい、刺繍が綺麗に見えるように袖をつけてくださるという!
久しぶりに着るのでクリーニングもお願いしてみた。
金額も細かく説明して下さり、想像の数分の一くらいの金額で収まりました。
日頃洋服の裾上げやボタン付けなど針と糸関連は全て専門店でやってもらう私としては、着物を切って縫ってくれてこのお値段は破格!
“ちょっとしたパーティー用”の素敵な帯たちは少し迷いたい金額だったので、理亜さんも言っていたセールの時に伺おうかなと画策してます。
とても楽しみだ!
去年この連載でお邪魔させてもらった山王祭、理亜さんも同じ“檜物町”のお神輿を担いで街を練り歩いていたことが判明!
https://ynks.jp/contents/1601/
そこで記憶が蘇り、あの日お神輿を担ぐ背筋がしゃんとした美しい女性に目が釘付けだったことを思い出した。
「ああいう人が粋な女性っていうんだろうな」と思って見てたのは他でもない理亜さんだったのです!
おお、まさかあの方とお話できてお買い物まで同行できるなんて一年前の自分に言ったら驚くだろう。
さらに檜物町神輿の木頭として拍子木を叩いてたのは“割烹嶋村”九代目加藤仁さん、そう、理亜さんのお兄さん。
お二人とも法被姿も素敵だったなあ…
YNKs 界隈、粋を地で行くおとなたちが当たり前のようにそこにいる世界だった。
割烹嶋村
銀座いち利 本店
独特のゆるいタッチと鋭い視点で描くイラストエッセイが人気。雑誌や広告、ウェブメディアなどで幅広く活躍中。大の旅好きで台湾のオールイラストガイドブック『LOVE台南~台湾の京都で食べ遊び~』(祥伝社)を2017年に出版。『子連れソウル』『ジジ連れ冥土のみやげ旅inパリ』(ともに祥伝社)などの著書がある。
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