ブレイクダンスで世界を笑顔に。コーセーが目指す新たな“価値”の創造

2023.02.28

日本はもちろん、アジア圏でも絶大な人気を誇るコスメブランド「雪肌精(せっきせい)」で知られる株式会社コーセー(本社:中央区日本橋3-6-2)。「美しい知恵、人へ、地球へ。」という企業メッセージを掲げ、美しく健康的で幸せな生活をサポートする活動の一環として、フィギュアスケートや女子プロゴルフなど、さまざまなスポーツの振興支援を行っている。

その中で異彩を放つのが、自らがオーナーとなり2020年に設立した、プロダンスチーム「KOSÉ 8ROCKS(コーセーエイトロックス)」だ。コーセーとダンス。これまでの企業イメージからは一見遠いように感じられる、両者の結びつきはいかにして生まれたのか。チーム運営のキーパーソンに、「KOSÉ 8ROCKS」に込めたコーセーの想いを聞いた。

ゼロ地点から始まった、コーセー×ダンスのコラボレーション

2012年から中学校体育で必修科目となったほか、小学校でも「表現運動」のひとつに採用されるなど、より身近な存在となっているダンス。一般社団法人ストリートダンス協会の調査によれば、国内の競技人口は600万人と推計されており、野球やサッカーのそれに迫る勢いだという。

 

「日本のダンス界は選手の実力も年々向上しており、世界大会で優勝またはトップクラスの成績を残す日本人も、珍しい存在ではなくなっています。それにも関わらず、ダンス自体のアンダーグラウンドなイメージが払拭できず、野球やサッカーといったメジャースポーツに比べ、子どもたちの憧れの職業に挙がることが少ないのが現状です」(株式会社コーセー 宣伝部 メディア統括課 中村 豪さん)

  • コーセー 宣伝部 メディア統括課 中村 豪さん

そうした現状を打破すべく、2020年に発足したのが日本発のプロダンスリーグ「第一生命D.LEAGUE(ディーリーグ)」だ。リーグの趣旨は、日本のダンスの発展と普及を図ること。具体的には、ダンスのプロを生み出し、アートとスポーツ、そしてビジネス面における新たな価値創造を目的としている。

  • 2020年8月に発足した、株式会社Dリーグが運営する日本発のプロダンスリーグ「第一生命 D.LEAGUE」。「KOSÉ 8ROCKS」を含め、2023年現在では、12チームが参加している

「D.LEAGUE側から提案をもらうまで、コーセーとしてダンスに関する知見は、皆無といってよい状態でした。それでも参画することを決めたのは、リーグの趣旨に賛同したから。そして、世界レベルに達している日本のダンスシーンに大きな可能性を感じたからです」

ダンスに関する知見がない状態から始まった、D.LEAGUEへの参画。しかも、単なる協賛ではなく直接チーム運営に関わるという、異例づくしの船出だった。

  • ブレイクダンス世界チャンピオンのISSEIをディレクターに迎え設立された「KOSÉ 8ROCKS」。現在は、Kakuを新ディレクターに迎え、12名の男女混合編成チーム(写真)となっている

「ディレクターを含めたメンバーの選定からチームロゴのデザイン、そしてスポンサー集めまで、チーム運営のすべてに関わったのは、会社として初めての経験でした。もちろん、チームのメンバーとも直接契約を結んでいます。それは即ち、彼らの人生に対して責任がある立場を選んだということ。チームや個々のメンバーを世界に飛躍させる決意と覚悟を持って、今回のプロジェクトに臨んでいるのです」

ダンスチーム運営の難しさ。それでも「ブレイクダンス」にこだわる理由

異例という意味では、「KOSÉ 8ROCKS」がダンスの中でも、特に「ブレイクダンス(ブレイキン)」というジャンルにこだわっている点も注目に値する。というのも、日本のダンスシーンは、「ヒップホップダンス」と呼ばれるジャンルが人気の主流。D.LEAGUEもヒップホップダンス主体のチームが多いため、ブレイクダンス・オンリーのスタイルが、ある意味で“足かせ”となる側面もあるのだ。

  • ©D.LEAGUE 22-23
    ステージで躍動する「KOSÉ 8ROCKS」。「ブレイクダンス(ブレイキン)」は、1970年代に生まれたHip Hopカルチャーの重要な1要素。アクロバティックな身体表現が大きな特徴となる、ストリートダンスの1ジャンルだ

「確かにD.LEAGUEに限っていえば、そうかもしれません。『KOSÉ 8ROCKS』のメンバーは、ブレイクダンサーとして誰もが世界レベルの実力を持っているのですが、それが観客になかなか伝わりにくい、と感じることもあります」

 

前シーズン(21-22)ではシーズンチャンピオンに輝いた「KOSÉ 8ROCKS」だが、現在の最新ランキングは7位(2023年2月13日現在)と、やや苦戦を強いられている状況だ。王者に対し他チームのチェックが厳しくなったほか、今シーズンから1チーム同士の対戦形式にルール変更されたといった事情があるとはいえ、「KOSÉ 8ROCKS」のスタイルが戦績に無関係とは言い切れない。

 

「チーム編成の時点から、ブレイクダンスに対して真摯な姿勢で臨むB-boy&B-girl(ブレイクダンサー)を選んでいますから、メンバーの考えや目指す方向性は最大限リスペクトしています。とはいえ、ビジネスとしてチーム運営を考えれば、リーグ戦績も重要ですよね。戦績を上げるためには、ある程度マスに向けた表現も意識する必要がある。そのバランスを取ることも、チーム運営の難しい点です」

  • 「現在は、企業でいう “PDCAを回す”ような感覚で、メンバーと常にコミュニケーションをとりながら、ベストなパフォーマンスを模索しているところ」と語る中村さん

それでも敢えてブレイクダンスにこだわるのは、日本のダンスシーンのグローバルな展開を視野に入れてのことだ。

 

「2024年のパリ五輪の競技種目にブレイクダンス(ブレイキン)が採択されたことからもわかるように、世界的に見ればブレイクダンスはメジャーなジャンルです。しかも、世界大会で優勝する日本人ダンサーが何人もいます。もちろんD.LEAGUEの戦績も大事ですが、日本のダンスシーンを世界に飛躍させたいと考え、敢えてブレイクダンスにこだわるチーム編成を取ることにしました」

ジェンダーフリーな社会へ。「KOSÉ 8ROCKS」に込めたコーセーの企業姿勢

中村さんの言葉からは、日本のダンスシーンにかけるコーセーの想いの強さが伺える。とはいえ、やはり気になるのが、コーセーとダンスというマッチングだ。代表ブランドである「雪肌精」からもわかるように、一般的にみるとコーセーは、どちらかといえば大人のためのコスメメーカーというイメージがある。

 

これまで携わってきたスポーツ振興支援の分野でいえば、たとえばフィギュアスケートのサポートなら、コーセーのイメージに近い印象を受ける人も多いはず。対してダンスは、従来の企業イメージとは、ある意味で真逆ともいえる競技だ。企業としてチーム運営を手掛ける狙いは、どこにあるのだろうか。

 

「本業との関わりでいうと、『KOSÉ 8ROCKS』に期待する役割のひとつは、あらたなライフタイムバリュー(顧客生涯価値)の創造です。コスメは、若いころに親しんだブランドを、年齢を重ねても使い続けてくれる傾向が強い商品とされています。この点で若年層との接点は、コスメメーカーとして課題でした。一方、ご存じのように、ダンスのファンは若者がメインです。つまり『KOSÉ 8ROCKS』の活動を通じ、若い世代にコーセーの存在を知ってほしい。そして、彼らと一緒に、ブランドも次世代に向け成長していきたいという狙いがあるのです」

 

あらたなユーザー層の開発にあたり、いわゆるスモールマスに注目したというわけだ。ある意味で、従来のコーセーのイメージを壊す取り組みともいえるが、その効果は徐々にあらわれつつある。たとえば、TikTokで公開された「KOSÉ 8ROCKS」と雪肌精のコラボムービーは、若い層にも雪肌精の存在とメリットをPRする好機となった。

「KOSÉ 8ROCKS」のInstagramアカウント(kose8rocks)で公開された「KOSÉ 8ROCKS」×雪肌精のコラボムービー​

 

 

さらに、このコラボムービーで特筆すべきは、「KOSÉ 8ROCKS」の男性メンバーが雪肌精を用いるシーンが含まれていること。中村さんによれば「KOSÉ 8ROCKS」が、男女混合のチーム編成を重視している点にも、コーセーの企業姿勢が反映されているという。

  • スモールマスを取り込むチャンネルとしても「KOSÉ 8ROCKS」にかける期待は大きいという中村さん

「現在コーセーは『美しい知恵、人へ、地球へ。』という企業メッセージを、サステナビリティ指針としても採用しています。『KOSÉ 8ROCKS』が設立当初から男女混合編成にこだわっているのは、SDGs開発目標のひとつである『ジェンダー平等を実現しよう』と深い関わりがあります。コラボムービーの中で男性メンバーが雪肌精を使用しているのは、この商品がジェンダーフリーであることを知ってもらうためでもあります」

目先の結果に左右されず、今後もシーンの発展に貢献したい

既存のイメージにとらわれず、社会貢献とビジネスの両面であらたな価値を創造する。そんな、意欲的な取り組みの象徴となる「KOSÉ 8ROCKS」。今後の目標も、大きく2つにわけることができるという。

 

「短期的な課題としては、やはりD.LEAGUEの連覇ですね。まずは、D.LEAGUEを通じてチームの存在を広めることが大切だと考えています。日本のダンスの発展と普及という点では、2024年のパリ五輪に選手を送り込むことも直近の目標です。たとえば、今年20歳になるメンバーのYuikaは、ブレイキンの強化選手に選ばれています。またチーム以外でも、個人協賛という形で、ブレイキンの優勝候補とされるShigekix選手を支援しています」

  • 2022年10月から、コーセーとスポンサー契約を結んだShigekix。ブエノスアイレスユースオリンピック(2018年)にて銅メダル獲得など、数多くの実績を持つブレイクダンサーだ

一方、ビジネス面での目標は長い目で考えていると中村さんは語る。

 

「『KOSÉ 8ROCKS』の活動と、本業であるコスメ製品とのシナジーについては、すぐに結果が出るものとは考えていません。ライフタイムバリューは、短期間で生まれるものではないからです。単に彼らの知名度ということではなく、『KOSÉ 8ROCKS』のチームビジョンやメンバーの姿勢に共感するファンを育てることは、コーセーの価値向上にもつながります。その点においても、ダンスチーム運営は長い目で考えていかなければならない事業です。目先の結果に左右されず、これからも日本のダンスシーンに貢献していきたいですね」

  • 日本橋エリアの魅力は、「古き良き街」と「生まれ変わる街」の姿が上手に融合していること。進化を続ける街に、「KOSÉ 8ROCKS」も何らかの貢献ができれば、と中村さんは語ってくれた

“ブレイキンの無限の可能性で、世界を笑顔に”というチームビジョンを掲げる「KOSÉ 8ROCKS」。そこには、ジェンダーや人種を超えるダンスの可能性を信じるコーセーの想いが込められている。D.LEAGUEやパリ五輪での活躍で、世界を笑顔にする彼らの今後を、ぜひチェックしてほしい。

 

 

関連サイト
「KOSE 8ROCKS」Linktree: https://linktr.ee/kose8rocks

 

 

執筆:石井敏郎、撮影:島村緑

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