EVENT REPORT

「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2025 Reception Party」。写真家やキュレーターが世界各国から集まり、写真の可能性を語る

2025.11.05

T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO(以下、T3)は、「都市空間」を舞台とする屋外型国際写真祭です。東京駅周辺のオフィス街に写真作品を展示することで、通勤者や来街者が偶発的にアートと出会える場を創出してきました。主な会場となるのは、東京駅の東側に位置する八重洲・日本橋・京橋エリア。今年は銀座も新たな展示エリアとして加わり、2025年10月4日から27日まで24日間にわたり開催されました。

 

T3の今年のテーマは「庭」。場所に限りがある東京の都市部で、アーティストに作品発表の場を提供する手段として、都市の中で使われていない余白のような場所を活用しています。

人間によって設計された人工の秩序である「都市」に、写真作品が異物のように差し込まれることによって、都市空間を「生きた庭」へと変換する。写真作品や展示が空間と混ざり合って都市における「庭」を形づくることを今年のT3は目指しました。

 

会期中には、写真作品展示のほか、世界各国から最前線で活躍するキュレーターを招いたトークプログラムや鑑賞ツアーなど、多彩なプログラムが展開。その前夜祭となるレセプションパーティーが10月3日、T3のメイン会場のひとつである東京スクエアガーデンで開催されました。

 

■国内外から多彩なゲストが集まり交流したレセプション・パーティー

 

東京建物まちづくり推進部長・久間田尚紀さん、中央区長・山本泰人さん、T3ファウンダー・速水惟広さん

左から:東京建物まちづくり推進部長・久間田尚紀さん、中央区長・山本泰人さん、T3ファウンダー・速水惟広さん

 

レセプションパーティーは、T3を後援している東京都中央区長・山本泰人さん、東京建物まちづくり推進部長の久間田尚紀さんのあいさつで幕を開けました。

 

「中央区は江戸時代から、日本における芸術と文化の中心地として発展してきたまちです。本区も後援するこのイベントに多くの方が参加し、芸術・文化の活動を庭のように面的に広げていければと考えています」(山本区長)

 

「この八重洲・日本橋・京橋エリアは、エリア内であればどこにでも徒歩で移動できる範囲にあります。巨大なビル群の足元に、路地や老舗の店があり、庭のような感覚で散策できる場所。庭の中を歩いているような感覚で、写真展を楽しんでいただけるのではと思っています」(久間田さん)

 

この日会場に集まったのは、参加アーティストやキュレーターをはじめ、協賛企業関係者、地域の方々、行政関係者、そしてメディア関係者など多様な顔ぶれ。

会場内では、出張専門のおむすび屋「山角や」が目の前で結ぶおむすび、和菓子作家まきのあやさんによる「庭」をテーマにした生菓子、静岡発の日本茶ブランド「Chabashira Japanese tea」が提案する「ほうじ茶のハイボール」や「深蒸し煎茶の焼酎割り」などが提供され、これらを楽しみながら、ゲスト同士の楽しく交流する様子が見られました。

 

出張専門のおむすび屋「山角や」

 

和菓子作家まきのあや

 

また、パーティーの中盤では、T3のファウンダーである速水惟広さんより、今回のT3に参加したアーティストやキュレーターの方々の紹介が行われ、会場に集まったゲストからあたたかな拍手と賛辞が送られました。

 

■写真家・メリッサ・シュリークさんに聞く作品に込めた思い

 

メリッサ・シュリーク

写真中央:笑顔のメリッサ・シュリークさん

 

レセプションパーティーには、写真家メリッサ・シュリークさんも来場しました。ダンサーとしてのキャリアも持ち、現在はオランダを拠点に活動するシュリークさんは、企画展「City as Garden」の一環となる写真展「Ode」(東京建物八重洲ビル・三栄ビル1F、10月4日~27日)を手がけています。シュリークさんに、東京という都市空間における作品のテーマと表現の意図をお聞きしました。

 

T3 Photo Festival Tokyo メリッサ・シュリーク展覧会「Ode」

写真展「Ode」(写真提供:T3)

 

「写真は2019年から2022年にかけて撮影したもので、都市に暮らす女性たち、そして女性の友情にフォーカスしました。都市は複雑かつ硬質、基本的に男性を基準として作られていると感じています。そこに女性がどう自分の場所を作るのかを表現しています。私の写真に写る女性たちはとてもやわらかなイメージですが、美しさや優雅さだけを表しているわけではありません。時にはぎこちなかったり、ちょっと奇妙だったり、居心地の悪さが感じられたり、遊び心にもあふれているのです。私は女性たちに自分なりの方法で存在感を示してほしいと願っています。日本人女性もモデルとして登場しているのですよ」(シュリークさん)

 

シュリークさんの作品のモデルのひとり、水村里奈さんもレセプションパーティーに姿を見せました。コンテンポラリーダンサーで振付師でもある水村さんに、撮影時のエピソードをお聞きしました。

 

水村里奈

シュリークさんと談笑する水村里奈さん

 

「撮影は直感的で即興的、メリッサさんとの掛け合いがとても楽しかったです。決められた場所で決められたポーズを取るのではなく、ある程度自由に動ける方が創造意欲をかき立てられますから。メリッサさんもダンサーなので、言葉がなくても共感し合えたのではないかと思いますね。彼女の想像と私の想像がリンクしてくるので、思い切ってどんどん踏み込んだ表現ができる。それを彼女はおもしろがってくれるのです。彼女が撮ってくれた自分の写真を見たときに、今にも動き出しそう、一瞬の躍動感を閉じ込めず生かしてくれていると感じました」(水村さん)

 

 

通常、写真展といえば閉鎖された空間に展示されるケースが多いものの、T3ではまちに広く写真を溶け込ませる手法が取られています。参加するアーティストたちにとっても、自身の作品をできる限り多くの人に見てもらえる絶好の機会となります。水村さんもこの点に大きな期待を寄せていると語りました。

 

■日本人女性写真家を年表と写真集で紹介する展示にも注目

 

また、昨年に続き、今年のT3でも、日本の女性写真家たちの作品を取り上げる企画が注目を集めました。「写真集でたどる日本の女性写真家のまなざしfrom “I’m So Happy You Are Here”」( 東京スクエアガーデン1F アートギャラリー、10月4日~27日)は、日本の女性写真家たちの様々な視点や自由な表現を「写真集」というメディアを通して振り返る試みとなります。キュレーションを手がけたのは樋口歩さん。オランダ在住で、普段はグラフィックデザイナーとして活動する樋口さんに、T3との出会いや東京という都市空間で行われる写真展への想いをお聞きしました。

 

「ニューヨークの出版社・Apertureから出版された日本人女性写真家を紹介する写真集『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now』のデザインを手がけたことをきっかけに、今回のT3への参加に発展しました。日本の女性写真家といっても非常に裾野が広いため、年表形式で時代の流れを示しながら、入手困難な写真集と現在も流通している写真集の両方を選んで展示しています。今回の展示はオフィスビルですから、普段写真になじみのない方々の目にもふれやすい場所です。通勤時に少し立ち止まって、この展示から新たなインスピレーションを得ていただけたらうれしいですね」(樋口さん)

 

写真集でたどる日本の女性写真家のまなざしfrom “I’m So Happy You Are Here”

 

■まちの中での作品と出会いが、新しい気づきやアイディアを得られる機会に

 

T3のファウンダー・速水さんは、7回目を迎える今ようやくT3を様々な人々に知ってもらえるようになってきたと語りました。

 

「7度目という積み重ねを経て、ようやく土台が見え、新たな可能性も見えてきました。T3が目指しているのは、大きく広げることよりも、ここまで多くの人々とともに作り上げてきたものを長く大切にしていくことです。まちゆく人が偶然写真を見て、新しい気付きやアイディアに出会える。そんな環境を作ることで、効率を重視して作られる都市というハードの中に、新たなソフトが育まれていくのではないかと思っています」(速水さん)

 

T3 Photo Festival 東京スクエアガーデン

 

写真の展示にとどまらず、作品と人そして作品と市場をつなぎ、若手を育てる場として、ますます注目を集めているT3。会期中にこのまちを訪れれば、通勤の途中、仕事の合間、買い物や観光の帰り道……日常の中で新たな驚きや発見に出会えます。

 

東京スクエアガーデン

 

取材・文/冨永真奈美

撮影/外山和希