EVENT REPORT

八重洲・日本橋・京橋エリアが花で彩られた24日間「Meet with Flowers in TOKYO YNK」レポート

2024.04.26

今回で4回目を迎え、八重洲・日本橋・京橋(YNK)エリアの春を彩る風物詩となりつつある「Meet with Flowers in TOKYO YNK」が4月7日、24日間という会期を終え閉幕。曇りや雨でスッキリしない日が続いた今年の春ですが、趣向を凝らしたさまざまな花の企画で、周辺のワーカーや来街者の目と心を潤しました。

 

フラワーイベント「Meet with Flowers in TOKYO YNK」は、YNKエリア内のいたるところで花にまつわるコンテンツを同時に展開し、 地域をあげて花で来街者を迎えるとともに、「持続可能な〈花のある暮らし〉を。」という副題のもと、低迷が続く花き業界を応援するイベントです。

 

数あるコンテンツの中でも毎年人気を博しているのが、切り花の無料配布。江戸時代の園芸文化発展の一端を担った“花売り”を現代風に解釈し、街中を転々と移動しながら実施され、メイン会場の東京スクエアガーデンでは約3,000本ものガーベラが配布されました。

 

 

1本1本丁寧に手渡されたガーベラを引き立てていたのは、グラフィックアーティスト兼ペインターのWOK22氏デザインの台紙です。緻密な描き込みのオレンジのガーベラが重なり合い画面を構成。オレンジ一色に染まった朝焼けのガーベラ畑を思わせる台紙にセットされた切り花はまるで、額縁に飾られた美しい絵画のようでした。

 

話は少し逸れますが、たとえば、歴史と文化の薫るパリには街のあちこちに花屋があり、ブーケを持って歩く人が多いことで知られています。それと同じような光景が「Meet with Flowers in TOKYO YNK」で見られました。「Meet with Flowers in TOKYO YNK」が、江戸の園芸文化や価値観から見えてくる「花のある暮らしの豊かさ」に、私たち日本人が改めて気づくきっかけとなることを目的としている理由が、この光景を見て少し分かった気がします。

 

 

東京スクエアガーデンでは切り花の無料配布のほか、花からのインスピレーションで生まれたアート作品が大々的に展示されました。アートワークを提供したアーティストのひとりは、配布された花の台紙以外にも、イベント全体のキービジュアル等を手掛けた WOK22氏。 STUSSYやAdidasとのコラボレーション等、実力派アーティストの WOK22氏の作品は、中央通り沿いの敷地に単管で組まれたゲートに飾られ、都会のオアシス・東京スクエアガーデンに広がる緑を借景によく映えていました。

 

 

さらに夜になると、LEDの光で色鮮やかに変化。全長20メートルのゲートの中を通ると、都市の自然とストリートアートが交じり合う世界観に没入体験できるからか、このゲートを選んで通る人も多く見られました。

 

 

場所は変わって、1階オフィスエントランスホールに昨年オープンした「東京スクエアガーデンアートギャラリー」で展示を行ったのは、フラワーアーティストの安井竜樹氏と写真家であり映像作家の坪井隆寛氏が立ち上げた現代アートユニット・wilquitousです。まず目を惹いたのが、『廃しての彩生の灯り』と題された高さ3.5メートルにも及ぶフラワーインスタレーション。長期間の展示を考慮し、ドライフラワーになるものやもともとドライ状の植物を用い、色を最小限まで削ぎ落とした作品ながら、その前に立つと、最後の最後まで生を謳歌する植物の圧倒的な存在感、リアリティーに吞まれてしまいそうなほど。

 

 

そして、細部に目を凝らすと、見たことのない先の尖った線形の硬い葉を持つ植物や、密に集まった花がタワシに見える植物など、ひとつひとつに個性があり観察していて一向に飽きることはありませんでした。

 

 

ギャラリーには、写真作品と映像作品の展示も。こちらはフラワーインスタレーションと打って変わって原色と蛍光色の洪水。たとえばフォトコラージュは、一見相容れないモチーフの組み合わせが wilquitous 独特の色彩センスにより融合し、その先にある物語を想像させる内容。また、音楽家・前田勝彦によるソロユニット・world’s end girlfriendの音楽を生花で表現した、 “IN THE NAME OF LOVE”のPV には万華鏡のように変化する生命の美しさ、儚さと刹那が閉じ込められていました。

 

 

とりわけ見入ってしまったのは、wilquitousの真骨頂を体感できる「ゲリラ・ガーデニング・トーキョー」の活動をまとめた短編映画。様々な文化や人種が混ざり合う東京の路上を舞台に、街から受ける印象をテーマに花を用いてゲリラガーデニングを行う彼らの花に対する飽くなき追求と、挑戦を続ける姿勢は見ていてすがすがしく、ギャラリーを後にしてもしばらく、鼻に残る苔むした森のような香りとともに、心に残り続けました。

 

 

余韻に浸りながら次に向かったのは、東京建物日本橋ビル。こちらにもwilquitousの巨大なフラワーアート(タイトル『supplement』)が展示され、その立ち姿をもって、カオスや矛盾の持つパワーや美しさを提示。足元に広がる色とりどりの花と苔が生える森に突如として現れるダクトは、さながら巨大な未来生物のようで、多様な生命の共存を支える未知なる仕組みを目の当たりにしたかのようでした。

 

 

本レポートを締めくくるのは、東京建物八重洲ビルに期間限定でオープンした、実店舗を持たない生花店・L.i.F designのポップアップです。L.i.F designでは、「一輪から広がる出会いの輪」をコンセプトに、様々な場所に出かけていきイベントやポップアップでの生花販売やワークショップを行っており、YNKエリアには「Meet with Flowers in TOKYO YNK」で 初進出。

 

東京駅前、幹線道路の外堀通りに面する八重洲は、時間に追われている人も多いせいか、どこか雑然とした感じを受ける街。 そこに現れた、 L.i.F designのポップアップは小さい売り場ながら、その鮮烈なカラーの花々が放つ陽気なパワーで、街並みを変えるようなインパクトを感じました。

 

 

また、初心者には敷居が高いイメージがあり、なかなか入りづらいムードが漂う花屋ですが、街に開かれたポップアップには周辺のワーカーを中心に性別年齢を問わず人々が訪れ、自宅用に吟味した1輪を購入するケースも多数。今回の機会が、人と花の距離を近づけるのに一役買ったことは間違いないでしょう。

 

新たな巡り合わせの多い春に、「花のある暮らしの豊かさ」に改めて気づかせてくれたイベント「Meet with Flowers in TOKYO YNK」。花を楽しむ暮らしの中で、自分の生活や心境がどう変わっていくのかもまた楽しみです。