現代アートに工芸、古美術…、八重洲・日本橋・京橋エリアは知る人ぞ知るアートの宝庫。アートにも造詣の深いマドモアゼル・ユリアと一緒に、今日はどんなアートによりみちする?
オフィスビルが立ち並ぶ東京八丁堀の裏通りにひっそりと佇むレトロなビル。その2階に2人のオーナーが共同で経営する個性的な骨董品店があります。もともとここで鈴木学さんが経営していた骨董店が「逆光」。そこに、愛知県から上京した「トトトト」の小野田圭佑さんが合流し、現在は1つのお店として営まれています。これまでこの連載で訪れた古美術店とは趣旨も扱う商品もガラッと異なるユニークなお店。小さな店内には縄文土器や海外製ガラス瓶、はたまた昭和時代のおもちゃや古書まで……ジャンルレスに並べられた品の数々。お店のコンセプトや気になる品々について、オーナーのお2人に伺いました。
ユリア:こんにちは。これまでも京橋や日本橋の古美術店やギャラリーに何軒か伺いましたが、こちらは雰囲気もセレクトも違って、とてもユニークなお店ですね。
鈴木さん:こんにちは。元々は古書の割合が大きかったのですが、今は古書と骨董を両方メインで扱っています。
小野田さん:今扱っている物にジャンルや時代の区分けはなくて、縄文土器もあれば現代美術家・大竹伸朗さんの個展のグッズもある。デルフトタイルや昭和のおもちゃなどもあります。
ユリア:現代の生活で、美術的価値の高い古美術品を購入して家に飾るのは、なかなかハードルが高いと思うんです。でもこちらのお店に揃えられた品々は私たちの生活の延長にあるような気がします。自分のお気に入りを探して、自分で価値を見出して大切にできる品を揃えられると楽しいですね。
鈴木:僕らのお店は古美術って言われちゃうと気恥ずかしい所もありますね。でも物によっては美術的価値の高いものを仕入れることもあります。
ユリア:こちらはビルの2階でなかなかパッと見つけて入って来られるお客様は多くはないのかなと思うのですが、目的を持っていらっしゃる方が多いのですか?
小野田:そういうお客さんが多いですね。インスタで商品の情報を発信しているので、それを見て実物を見てみたくて来たという方が多いです。このあたりはオフィスが多いので、このビルの前をいつも通っていて、気になって見に来たという方もいらっしゃいます。
鈴木:うちはジャンルレスなのでいわゆる専門のコレクターの方はほとんどいらっしゃらないです。
ユリア:やはり自分の生活の中で見立てて使うために立ち寄る方が多いんですね。
鈴木:そうですね、何かあるかな…という感じでいらっしゃるんです。
小野田:これが縄文中期、つまり紀元前2000年くらいなので、今から4000年くらい前の深鉢型土器。新潟で出土したものです。発掘されたときはバラバラだったもので、修復されてこの状態になっています。
ユリア:縄文土器はこれまでも結構見てきたのですが、ここまでの大きさのものを触ったのは初めてです。
鈴木:縄文時代でいうと、こういう石もあります。石斧ですね。
ユリア:綺麗ですね
鈴木:こういった磨製石器は。石を削って磨いてつくられたものです。皆で集まって磨いていたんじゃないですかね……。
ユリア:そういえば私のおばあちゃんの家が山梨だったのですが、子どものころよく石を取りに行って割り箸に付けて、ちっちゃいオリジナル石器みたいなものを作って遊んでいたのを思い出しました。
小野田:そんな遊びをされていたんですか。山梨といったら縄文土器のメッカですからね(笑)。
ユリア:これも売っているんですか?
鈴木;売ってます。
ユリア:触っていいですか?
鈴木:もちろん触っていいですよ(笑)。ぜひ持ってください。
ユリア:ずっしり重いですね……。密度がすごくてしっとり感もあって、すごく不思議な石ですね。
鈴木:ちなみにこちらは3万5,000円なのですが、安いと感じるか高いと感じるかはお客様しだいというところですね(笑)。
縄文土器も今日ここにあるものは20万円くらいですが、趣味として買うには手が出ないような金額のものも世の中にはたくさんあります。
ユリア:こういった縄文土器や石斧などのアイテムが、日本全国色々な場所で似たようなデザインのものが発見されていることが不思議です。
鈴木:太古の時代も意外と地域間の交流はあったようです。隣の集落でこんなものを作ってた、うちも作るぞ、みたいに徐々に伝わったんじゃないですかね。
小野田:昔は大陸と近かった九州がトレンドの先端でした。九州から徐々に東の方へ文化が伝わっていったと言われています。
鈴木:九州からトレンドが産まれて、西のあたりで洗練されていって、東の方に行くと徐々に野暮ったくなっていく……という感じなんです。当時からすれば東の方は田舎だったんでしょうね。
ユリア:このお店の空間はとても落ち着きます。お店に置いてある本も骨董も昔のおもちゃも、バラバラなものが一緒に並んで空間に馴染んでいるのが面白いです。でも全部一貫して通ずるものがあるとすごく感じるんです。
鈴木:自分でも分からないですね(笑)。仕入れの基準も特にはないんです。
小野田:あの壁に貼ってある教訓、これもいわば古物として仕入れたものなんですが、あれがまさに僕らの教訓なんです。とてもいい言葉だなと思って、忘れないようにお店に貼っています。
小野田:この仕事をしていると、ものを見る時に、どうしても売れるか売れないか、欲目で見ちゃったりします。もちろん商売なので当然その部分も必要だと思うんですが、それこそ柳宗悦の「直下(じきげ)に見よ」という言葉にあるように、物と対峙してそこで気に入ったものを扱う、その感性を大事するというところは意識しています。
鈴木:なんとなく反射神経みたいなものがあるじゃないですか。服とかも「これがいい」とか今持っている服との組み合わせとか思い浮かべたり。それと同じなのかな。ユリアさんはどうですか?
ユリア:私も着物は自分がいいなと思ったものしか買わないですし、例えば帯留なども帯留として作られたものでなくても、良いなと思ったら買って使ったりするので、すごくよく分かります。鈴木さんのご自宅もこういう素敵なものに囲まれているんですか?
鈴木:いやいや、そんな「素敵な古いものに囲まれた暮らし」とかではないです! 骨董品屋なので、良いものを見つけたら早く売らなくちゃと思いますから(笑)。
骨董品や古美術品は何百万、何千万とするものもたくさんありますが、僕らは自分たちの資本力で買えるものを仕入れて、お客様にも自身の身の丈に合う品を手に取ってもらい、日常でどんどん使って欲しいと思っています。
ユリア:この本がすごく気になっています。しかもすっごく可愛い見た目なのに、「日本の財閥」というタイトル。
鈴木:ここの版元は硬派な本が多いんです。それなのに昔の文庫って装丁がすごく可愛い。これこそまさにジャケ買いの最たるものですね。
ユリア:このまま部屋に飾っても素敵になりそう。
鈴木:それは文庫ですが、本に関しては詩集・句集を多く揃えています。発行部数が少ないので作りがしっかりしていて、今ユリアさんがおっしゃったように、“物”としてのおもしろさを楽しめます。
ユリア:鈴木さんが「このお店に来たらこれだけは見てほしい」と思うおすすめはありますか?
鈴木:どれか1つ選べと言われると難しいですね。僕はこちらから勧めるより、来た人が何に目を留めるかを見てしまいます。「え、それ?」だったり、「なるほど」みたいな。来る方の感性にまた刺激されることも、この仕事の楽しみの一つです。
時代もジャンルもバラバラなのに、なぜか全体がまとまっている不思議な空間は落ち着きます。大正時代や昭和初期の古書は、装丁も凝っていて思わずジャケ買いしたくなる魅力がありました。1冊1冊手にとってじっくり眺めるだけでも楽しいですよ。気軽に買える価格帯のものもあるので、ぜひ骨董初心者の方に立ち寄っていただきたいです。
衣装協力:TELMA (テルマ)
トップス 42,900円
スカート 86,900円
(問い合わせ info@telma.jp)
撮影/山仲竜也
ライター/YUCO
10代からDJ兼シンガーとして活動を開始。DJのほか、きもののスタイリングや着物教室の主催、コラム執筆など、東京を拠点に世界各地で幅広く活動中。YouTubeチャンネル「ゆりあの部屋」は毎週配信。
「ゆりあの部屋」:@melleyulia
Instagram:@mademoiselle_yulia