地元2社のタッグで三重の地ビールを世界へ、伊勢角屋麦酒 八重洲店にかける夢

2018.10.15

2018年8月3日(金)、国際的評価も高い三重県伊勢市のクラフトブルワリー「伊勢角屋麦酒」が、東京・八重洲に待望の直営店「伊勢角屋麦酒 八重洲店」をオープン。店舗展開のパートナーに選ばれたのは、同じ三重県に本社を置く株式会社アクアプランネット(三重県松阪市)だ。グローバル企業を目指す両社が最初の進出先に八重洲を選定した理由とは? また、地域の企業同士のタッグはいかにして実現したのか? アクアプランネットの福政圭一社長にお話を伺った。

想いや製法、歴史を知り、つくり手の代弁者になる

相手の懐に飛び込むのがとても上手な人。それが福政社長の第一印象だ。取材場所は、オープンから1カ月が経った伊勢角屋麦酒 八重洲店。出されたお茶が美味しくて思わず目を細めると、地元・三重県で生産される伊勢茶にまつわるあれこれを、丁寧にわかりやすく、そして熱を込めて語ってくれた。

 

「単にエネルギーを補給するための“食”ではなく、食を通じて土地の風土や文化、生産者の想いに触れることで、食そのものが楽しく豊かなものになると思うんです。ですから私たちは、たった一杯のお茶からも何かを感じ取っていただけるよう、“伝える”ということを大切にしています」。

  • 伊勢角屋麦酒 八重洲店があるのは、東京駅八重洲口からも日本橋駅からも徒歩数分のオフィスビル地下の飲食ゾーン「八重仲ダイニング」内

折しも数日前に発行された『NIKKEIプラス1』(日本経済新聞社)の特集「ビール好きチェコ人厳選 日本のクラフトビール10品」で、伊勢角屋麦酒のペールエールがエール部門1位を獲得。ビール界のオスカー賞と称される「インターナショナルブルーイングアワード(IBA)」金賞をもすでに受賞している伊勢角屋麦酒の主力商品だ。世界が認めるブランドの首都圏への出店要請は引く手あまただったに違いない。

 

「そうしたなかで、当社をパートナーとして選んでいただいたことを大変光栄に思います。両社の接点は東京・日本橋に2013年にオープンした三重県のアンテナショップ『三重テラス』。運営を当社が受託し、当時から交流の続く取引先の1社が伊勢角屋麦酒さんなんです。鈴木成宗社長は、クラフトビールの醸造に使う酵母の研究で博士号をお持ちなのですが、その“酵母愛”といったら、話しても話しても、まだまだ語るべきことがある。そんな探求心に裏打ちされた味を知り、『伊勢から世界へ』という夢を聞かせていただくうちに、同じ三重県出身として、近隣市町に本社を置く事業者として、想いが重なっていったことは、ごく自然なことだったのかもしれません」。

  • 伊勢で440年続く餅屋「二軒茶屋餅角屋」の家業を継ぎ、29歳でビール醸造に乗り出した伊勢角屋麦酒の鈴木社長

  • 明治後期から大正13年以前に撮られた二軒茶屋餅角屋の写真

設立25周年を目前に控え、高い目標をもたせてくれた三重の地ビール

アクアプランネットは来年で設立25周年を迎える。フード事業部は開設15年で22店舗までに成長。いずれの店舗も東京や大阪といった大都市圏で成功を収めている。2011年にはベルギーに本社を置く世界最大のビールメーカー「アンハイザー・ブッシュ・インベブ」と独占契約を締結し、ベルギービールの専門店「ベルジアンブラッスリーコート」を展開。昨年、日本におけるベルギー文化の普及への貢献が認められ、駐日ベルギー王国大使館から感謝状が贈られた。

 

「伊勢角屋麦酒 八重洲店をオープンするに当たり、『ベルジアンブラッスリーコート』の成功は確かに大きな後押しだったと思います。とはいえ、鈴木社長が1997年に地ビールを創業したころからの目標であった東京の旗艦店を任されたプレッシャーは大きい。しかもその先に世界の目抜き通りへの出店の夢があるわけですから、それを具現化するために長い準備期間をかけました」。

 

同社フード事業部が展開するブランドは既出のベルギービールのほか、イタリアン、フレンチ、バーベキューなど、それぞれに強い個性を持つ11のブランド。ブランドの数、出店のスピードをみても分かるように、これまではどちらかというと施設に合わせ、柔軟にブランドをつくってきた。様々な物件を見て回り、吟味に吟味を重ねた伊勢角屋麦酒 八重洲店は、同社にとっても新たな挑戦のスタートといえるだろう。

  • 伊勢角屋麦酒工場内の発酵タンク。世界レベルのビールは、地元の野生酵母と水を使ってつくられるものもある

  • 八重洲店では13タップを揃え、half pint650円~、pint1100円~にて提供

世界と勝負するための足掛かりの地・八重洲

「既存ブランドの海外展開は正直考えられませんでした。どれも海の向こうが本場ですから(笑)。伊勢の地ビールという世界と勝負できるブランドを得て、その足掛かりとなる店をつくるとなったとき、日本の玄関口かつビジネスの中核である東京駅周辺は、これ以上ない立地でした。飲食店がひしめくエリアですが、八重洲には開拓の余地が十分残されていると感じましたし、入居を決めたビルは、北海道や九州、房総といった地域をフューチャーした店が多く、伊勢の地ビールとともに味わう三重の食材を使った和食店のコンセプトにも合う。出店を決めたのが今年4月のことですから、そこからは早かったですね」。

 

“地方”を売るには、八重洲は紛れもない一等地だ。八重洲のある東京駅東側一帯には、日本橋から銀座までアンテナショップが集積。庶民的で親しみやすい個店も多い。

 

「東京観光で大手町(東京駅の北西に位置する)の地下に足を運ぶのことはまず考えにくい。でも、『八重洲を回ってみよう!』は、あり得ますよね。クラフトビールという言葉はここ数年で随分と市民権を得ましたが、それでも、日本国内の総ビール市場でクラフトビールはまだ1%に満ちません。伊勢から東京へ、東京から日本全国へ、そして世界へのステップには八重洲店の存在は必要不可欠だったんです」。

  • 和と洋の空間が共存する八重洲店店内

  • 地元・三重の魅力を時に熱く、時にユーモアたっぷりに解き語るアクアプランネットの福政社長

人々のライフステージに寄り添い、心豊かな社会を実現したい

伊勢角屋麦酒の首都圏への出店は、松阪から打って出て、大都市での存在感を堅固なものとしたアクアプランネット自体のブランドストーリーにも重なる。「for Living well ~よりよく生きるために」を企業コンセプトに、教育、フード、美容、フラワー、地域プロモーションと、人々のライフステージに応じた幅広い事業を手がける同社は、変化の激しい時代にあって、昔も今も変わらず人が求めるものを見極め、人気のサービスや商品に昇華させてきた。アクアプランネットが本社を松阪に置き続けている理由も、「よりよく生きるために」と考えるのは筆者の勘ぐりすぎだろうか。

 

「交通手段の発達や情報手段、特にインターネットの発達により世界は確実に狭くなっています。ですから、場所にこだわらない経営ができるようになった大前提があるうえで、松阪に本社があることが、当社に対する関心の入り口となっているケースも少なくありませんし、緑に囲まれて心豊かに暮らせる三重を離れることは、今は考えられないかな。やっぱり三重が好きなんでしょうね(笑)」。

  • 伊勢角屋で今なお続く伝統的な木樽を使った味噌たまり醸造の様子

  • その醤油と味噌でつくる料理と伊勢角屋麦酒のビールの相性は抜群

熱い想いは伝播する。国境を超えてファンの輪をつないで

こうして様々な人の想いがつまった店はオープン以来、ほぼ毎日のように開店を待つ人が見られるほどの盛況ぶり。周辺のオフィスワーカーに加え、噂を聞きつけ、全国津々浦々からやってきたクラフトビールファンのなかには外国人客の姿も目につく。

 

「出店費用の一部をクラウドファンディングで募集したことも功を奏したと思います。もともとの伊勢角屋麦酒ファンはもちろん、クラフトビールへの関心層、つまり潜在的なファン候補も含めて、『伊勢から世界へ』の応援者を集めることができました。もっとも、このことの裏を返せば、お客様をお迎えする店側の人間がサービスや商品を本気で愛していないと、ファンが離れてしまうリスクもある。だからこそ、前段で述べましたように、私たちは常につくり手を想い、その情熱や創意工夫をしっかり伝えられなくてはだめなんです。目の前の結果として、客数、売上高ともに予想以上に好調です。また、ファンの皆さんが新たなファンをつくってくれることは間違いありませんので、その期待に応えられるような店に育てていきたいですね」。

 

使命感を共有してこそ、社員は自主的に仕事にコミットする。福政社長へのインタビュー中、テキパキと開店準備を進めながらも、取材に協力してくれた小林由人店長以下スタッフ。親しみのある礼儀正しさ、そして、ビールを語る熱量が、福政社長に勝るとも劣らないものであることを考えれば、海外で伊勢角屋麦酒の暖簾を見られる日はそう遠くはないのかもしれない。

  • 伊勢角屋麦酒 八重洲店の小林店長もまた三重県出身

関連リンク
株式会社アクアプランネット http://www.aquaplannet.co.jp

 

INFORMATION

伊勢角屋麦酒 八重洲店

住所       中央区八重洲1-4-16 東京建物八重洲ビル 地下1階
         (東京駅徒歩5分 日本橋駅徒歩3分)
電話番号     03-3281-2300
営業時間     月ー金 11:30-15:00 17:30-23:30 土 17:00-23:00
定休日      日・祝
Facebookページ  https://www.facebook.com/isekadoyadraftbeer/
住所
中央区八重洲1-4-16 東京建物八重洲ビル 地下1階(東京駅徒歩5分 日本橋駅徒歩3分)
電話番号
03-3281-2300
営業時間
月ー金 11:30-15:00 17:30-23:30
土 17:00-23:00
定休日
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