「いけ増」で日本酒のグラスを傾ける矢羽田昌弘さん。矢羽田さんが持参するマイグラスは、ロブマイヤーの「トラベラー」という革製のケース付きの商品
髙島屋総務部で庶務チームマネジャーを務める矢羽田昌弘さんの一日は、各部署、店内の各セールスマネジャーからのメールや質問に対応することから始まる。それが終わると社員食堂で昼食を摂り、午後は店内を巡回。接客や販売員と話をしながら、お客様が安心・安全・快適に過ごせるためのチェックを怠らない。その後、打ち合わせや会議を経て、ようやく一日の仕事が終わる。
仕事の後に繰り出すのは、決まって地元日本橋。この日訪れたのは「いけ増」。手ごろな価格で旬の日本料理と選び抜いた日本酒を出す名店である。
「ひとりで行くなら、自分の緊張感やストレスを発散できる空間であること、バランスのとれた金額、そこを見極めていきます。そういう意味で、いいお店が多いのが日本橋なんです」
まずは日本酒のメニューから。
「酒売り場にいた経験から言うと、お酒の品揃えでその店のセンスが出ます。ここには『醸し人九平次 純米大吟醸』や『紀土 純米吟醸』もあって、志を持って選んでいるのがわかります」
酒売り場配属だった入社3年目、師走の一番忙しい時期に、本物志向を追求した蔵元のひとつ石川県菊姫酒造を訪ねた。「百貨店には置かない希少な日本酒を、どうしても髙島屋で売りたい」と、交渉に行ったのだ。以来、日本酒にはひとかどの見識がある。そして飲み方にもこだわる。
「ロブマイヤーのグラスを持参して、マイグラスで飲むんです。外でも本物のグラスで飲み、米の旨味、華やかさがどのようなものかをじっくり楽しみます」
そう言うと、ワインと同じ要領で日本酒を舌で転がした。酸素と一緒に攪拌させることで香りが引き立つという。ロブマイヤーのグラスは、髙島屋のリビングフロアでも販売している。
髙島屋日本橋店は、現在、2019年完成予定の日本橋二丁目地区再開発に向けて動き出している。矢羽田さんも、「総務という立場から、町会のひとたちと一緒に日本橋の伝統と文化を受け継ぎながら、町全体を盛り上げていきたい」と意気込む。
[右]「醸し人九平次 純米大吟醸」1合900円、[左]「紀土 純米吟醸」1合800円
天保2(1831)年、初代飯田新七が京都で古着や木綿を扱う「髙島屋」を興したのがはじまり。
昭和8(1933)年には、東京日本橋に地下2階・地上8階建ての店舗が完成。全館冷暖房を完備し、「東京で暑いところ、髙島屋を出たところ」という宣伝コピーが話題を呼んだ。
平成21(2009)年、百貨店建築として初めて国の重要文化財に指定された。
住所:中央区日本橋2-4-1 TEL:03-3211-4111
営業時間:10時30分~19時30分、レストラン街(B2、8F)と特別食堂11時~21時30分
不定休
選りすぐりのお酒で魅せる。
昭和23年創業。毎朝、築地から仕入れる旬の食材で魅せるワンランク上の居酒屋。地下一階にはカウンター席やテーブル席、地下2階には掘りごたつ式の個室や宴会場も完備。
プライベートや大人数の会合、宴会までできる使い勝手の良さでも人気。全国から集めた選りすぐりの日本酒、ビールなら「琥珀の時」や本場ドイツの「レーベンブロイ」など、個性的なお酒が充実している。
右下・飛騨牛朴葉味噌焼き1620円、左下・刺身盛り合わせ1620円、右上・海老しんじょ揚げ735円、左上・天ぷら盛り合わせ1620円、(単品追加・白きす天519円)
いけ増
住所: 中央区日本橋2-2-6
TEL: 03-3271-5685
営業時間: 11時〜14時、16時30分〜23時LO(金・祝前日〜4時LO)、土11時〜21時30分LO
定休日: 日曜・祝日
老舗洋食屋の名物オムライス。
昭和6年創業、洋食の老舗。定番の一品は伊丹十三監督の映画『タンポポ』で考案されたオムライスで、後にたいめいけんのメニューになった「タンポポオムライス 伊丹十三風」。これだけでも美味しい鶏肉入りケチャップライスに、オムレツがどんとのって出てくる。そしてオムレツにナイフを入れると、半熟の卵がとろ〜り。
住所: 中央区日本橋1-12-10 2F
TEL: 03-3271-2464
営業時間: 11時〜14時LO、17時〜20時LO
定休日: 日曜・祝日
タンポポオムライス 伊丹十三風2800円
中央通りで60年続くレストラン。
日本橋交差点からすぐの中央通りに、60年もの長きにわたりレストランの看板を掲げる。ショーケースの食品サンプルに郷愁を覚える世代も多いはず。
1階はイタリアンカフェをイメージしてリニューアルした喫茶室。洋食を出す2階は、昭和40年代から変わらないモダンインテリアにファンも多い。ランチは限定30食の「大皿ドライカレー」が人気。
住所: 中央区日本橋1-2-10
TEL: 03-3271-0003
営業時間: 11時〜22時LO(土祝16時LO)
定休日: 日曜・第3土曜
大皿ドライカレー1000円
おでん屋特製の「とうめし」を是非。
大正13年創業の関東風おでんの老舗。いわゆる関東煮で真っ黒い汁が特徴である。おでんはもちろんだが、ここの名物は「とうめし」。常連客の「茶飯に豆腐をどんとのせてくれないか」のひと言で生まれた一品で、醤油で炊いたご飯と、甘い出汁で煮た木綿豆腐の好相性にファンが多い。夜は単品だが、ランチでは「とうめし定食」として出される。
とうめし定食(ランチ)650円
日本橋お多幸
住所: 中央区日本橋2-2-3
TEL: 03-3243-8282
営業時間: 11時30分〜13時30分LO、17時〜21時45分LO、土祝16時〜21時45分LO
定休日: 日曜
極上出汁のおでんを良心的価格で。
日本橋3丁目交差点角。八重洲地下街とつながるビルの地階に界隈のサラリーマンで賑わうおでんと和食料理の人気店がある。昭和4年に創業した神楽坂の料亭「一平」がその前身だが、手頃な料金で旬の味や出汁の効いた美味しいおでんを出すとあって、丸の内から東京駅を越えてやってくるサラリーマンの姿も。お昼は手頃な「おでん定食」で薄口の極上出汁が味わえる。
住所: 中央区日本橋3-4-10 スターツ八重洲中央ビル B1F
TEL: 03-3275-2486
営業時間: 11時30分〜13時10分LO、17時〜21時40分LO(土16時〜20時30分LO)
定休日: 日曜・祝日
おでん定食(ランチ)800円
開店以来人気の鶏煮込みそばは絶品。
戦後、小さな中華料理屋から始まり、ジャズ好きの2代目の時代にはジャズ喫茶に。昭和42年から大広間完備の中国料理店として営業を続けている。ここの名物は「特製鶏煮込みそば」。鶏ガラの濃厚スープに、うどんのような喉越しの、カンスイ不使用の白い中華麺が絶妙に絡まり癖になる美味しさ。店内はオーナーの趣味のジャズが流れる。
住所: 中央区日本橋3-3-2
TEL: 03-3273-8921
営業時間: 11時30分〜21時30分LO
定休日: 日曜・祝日
特製鶏煮込みそば1200円
東京駅近のアットホームな本格的天ぷら店。
東京駅八重洲にほど近い日本橋の路地で25年続く。店名の「だぼ鯊」とは、主人が子供の頃、千葉の埋め立て地で獲って遊んだハゼの種類。食用にはならないだぼハゼだが、真ハゼの天ぷらにこだわりたいと、あえて店名にした。衣の水分をうまく飛ばして揚げた天ぷらはさっぱり柔らかく、次々食べても胃にもたれない。夜のお手頃な定食はおすすめ。
住所: 中央区日本橋3-3-14 大木ビル 1F
TEL: 03-3271-7533
営業時間: 11時〜13時30分LO、17時〜21時30分LO
定休日: 日曜・祝日
夜のお手軽コース5500円
いま注目のラグビー専門のスポーツバル。
気軽に食べて飲めるダイニングバーが、オーナーの趣味のラグビー人気の高まりを受け、昨年夏、ラグビー専門のスポーツバーになった。いまでは、ラグビーのテレビ中継があれば、深夜でも朝方でもオープンしていると聞いたラグビー愛好家やファンにすっかり知られる存在になった。日本橋ストリートラグビーのイベントも企画している。
ラムチョップ1380円
philly
住所: 中央区日本橋3-2-13 中條ビル1・2F
TEL: 03-3527-9795
営業時間: 11時30分〜14時、18時〜23時
定休日: 土曜・日曜・祝日(貸し切りパーティのみ要予約で可)
大広間もある、宴会や同窓会に人気の和食店。
いまの中央区湊、江戸の頃は鉄砲洲と呼んだ地の酒問屋所縁の居酒屋で、昭和22年に日本橋で開業した。東京駅近という地の利と、大広間があるのが幹事に受けるようで、昨今は年配者の同窓会で賑わっている。もちろん、新鮮な魚は、毎朝築地で仕入れる。女将さんの笑顔もごちそうのひとつ。コース料理は3800円から。飲み放題プランも充実。
住所: 中央区日本橋3-3-3
TEL: 03-3271-2939
営業時間: 16時30分〜22時10分LO
定休日: 日曜・祝日
刺身盛り合わせ
TEXT:織田桂、 PHOTOGRAPH:門馬央典
東京人2016年7月増刊より転載