EVENT REPORT

いけばな×現代アート作品とガーベラ咲くビジュアルがYNKエリアを彩る「Meet with Flowers 2026」イベントレポート

2026.04.10

大の園芸好きだった“花癖(かへき)将軍”として知られる徳川家康、2代秀忠、3代家光の影響により、江戸時代に一大ブームとなった園芸文化。江戸のそこかしこに草花が息づき「園芸都市」と称された歴史を継承し、新たな文化を創造するべく2021年からはじまったフラワーイベント「Meet with Flowers」を今年も3月18日〜4月5日に開催。いけばな×現代アートの作品とブルー地にガーベラが咲くイベントビジュアルがYNKエリアを彩り、約1万1千本の花が無償で配られたイベントの様子をレポートします。

 

 

街ゆく人々に約1万1千本の国産ガーベラを配布

かつて「園芸都市」だったYNKエリアで、街ゆく人に花を直接手渡す取り組み「Send Flowers」。2021年にはじまったその背景には、国産花きの消費低迷があり、手にすることで安らぎや元気をくれる花の価値を再発見してもらうことを目的にしています。今年は東京建物日本橋ビルや東京スクエアガーデンをはじめ、YNKエリアの15カ所で約1万1千本もの国産のガーベラを無償で配布。台紙には、花との写真を「#花との暮らし」をつけてInstagramに投稿してもらうお願いと、切り花のケアや飾り方を紹介するHow toページのQRコードを記載し、花との付き合いをより楽しんでもらう取り組みも。花を受け取った一人ひとりの嬉しそうな笑顔も印象的でした。

 

 

ビル前で花を配りはじめると、少しの戸惑いと驚いた様子の後で、笑顔で花を受け取ってくれた街ゆく人たち。外国人観光客やYNKエリアのビルに勤めるワーカーの姿も多く、中にはInstagramでこのキャンペーンを知り、立ち寄ってくれた人も。好きな色の花が選べることにも喜んでもらえて、楽しみながらセレクトしていました。

「Instagramでこのイベントは知っていたのですが、実際に受け取ることができて嬉しかったです。プリザーブドフラワーを習っていて、花はいつも家に飾っています。眺めるだけで気持ちが明るくなるのがいいですよね」(写真左)

「お花をいただけて嬉しいです。華やかなオレンジを選びました。花はたまに買って飾っていますが、部屋がパッと明るくなります」(写真右)

 

 

「お花って眺めているだけでなんだか嬉しくなりますよね。その日の気分で好きな花や色を選ぶのも楽しい」(写真左)

「姉妹でそれぞれ好きな色を選びました。ピンクもオレンジもかわいいから大好き!」(写真右)

 

いけばなの概念を覆す、壮大な現代アート10作品が街に出現

花を贈る「Send Flowers」と同時に行われたもうひとつのプロジェクト「Ikebana Project: “ism.”」いけばなの可能性を知ってもらうこと、いけばなの先入観を払拭することを主眼に、今から約100年前に自由な表現を求めていけばな草月流を創始した勅使河原蒼風のイズムを、展示を通して感じてもらうことを目指した取り組みです。YNKエリアの東京建物日本橋ビル、東京スクエアガーデン、三栄ビル、八重洲ダイビルに10人の華道家による作品が出現。総合ディレクターを務めた現代華道家・大薗彩芳氏による3Dプリントとの異分野コラボに挑んだ大作をはじめ、都市と人、時間、情報などをそれぞれテーマにした背丈以上もある壮大ないけばなアートにたくさんの人々が足を止め、見入っていました。

 

 

東京・檜原村の廃材と3Dプリントの花で描かれたアニミズム

「Ikebana Project: “ism.”」総合ディレクターを務めた現代華道家の大薗彩芳氏の作品「コノハナサクヤヒメ」。色とりどりに開く大きな花は、3Dプリント・デザインのパイオニア「積彩(SEKISAI)」の技術を用いて製作。見る角度によって何色にも変わりゆく花びらが神秘的で、日本神話で桜の美しさを体現した女神とされる「コノハナサクヤヒメ」の羽衣のよう。またダイナミックに伸びる木々は、東京都唯一の山村であり大切な水源地でもある檜原村の森の守り人「東京チェンソーズ」の案内のもとで見つけた廃材を使用。東京建物日本橋ビルの敷地内、日本橋交差点の目の前に設置され、多くの人が興味深そうに立ち止まり、あらゆる角度から眺めていました。

 

 

「都市の呼吸」をテーマに、五感を刺激する多彩な7作品が誕生

東京メトロ・京橋駅に直結する「東京スクエアガーデン」では「Breathing Tokyo」をテーマに、前期と後期で作品が入れ替わり計7つの作品が登場。招待作家、深澤隆行氏「都市のつくり手」(写真左)は、束ねた竹で人と都市の“共生と強制”を表現。ダイナミックな竹のしなりは凛と美しくも、適度な緊張感をはらんでいるよう。
そのほか、一合の米づくりに必要な水の量をジョウロで視覚化した渡部萩芳氏「555ℓ」(写真右)、情報媒体に植物を絡ませた石川遊雪氏「情報生態系」、新しい関係や意味が生まれ続ける都市の生成と変化をアルミダクトで表現した井上千聖氏「閾値」など、都市に暮らすことを考えさせられるインパクトのある作品が並びました。

 

 

生成と消滅の連鎖が織り込まれる「時間」を、2つの作品を通して表現

中央通り沿いの「三栄ビル」には海外ゲスト作家枠として、台湾の植物インスタレーション作家・現代フラワーアーティストのLee Chi Chang氏による「予感を組織する」(写真右)、「世界は記憶でできている」(写真左)の2作品を「タイムライン」をテーマに展示。“予感”のようなものを松の姿に投影した右の作品から、“かつて生がそこにあった”記憶を穴や影、破片などの痕跡で表現した左の作品へ。植物や木材に針金、パイプなど多彩な素材を使って生成と消滅の連鎖が織り込まれ、直線ではない時間の流れを描いたという。見るほどに発見のある作品で、多くの人が時間をかけて鑑賞していました。

 

 

シマハランの渦と流れる胡蝶蘭で表現した、静かに流れる時間

JR東京駅からすぐの八重洲通り沿い「八重洲ダイビル」ロビーに飾られ、通りを行き交う人や、ビルで働くワーカーの目を楽しませていた櫻井京櫻氏「時の庭」。「Travelogue」をテーマに、約1000枚のシマハランの葉を重ねて静かに流れる時間を形にし、気高く美しい胡蝶蘭の花びらを流すことで植物が時間のように巡る「庭」を製作。大きいもので高さ約180cmにもなる作品は一見すると彫刻作品のようでありながら、すべて生花で作られており、近くで見ると潤いと生命力に満ちたみずみずしさ。都市の中の憩いのオブジェとして新鮮な存在感を放っていました。

 

 

“個”を宿すおかめ花瓶といけばなのコラボ。公募作のデジタル展示も

華道家によるアート作品とは別に、ギャラリー展示も実施。「東京スクエアガーデン」「東京建物日本橋ビル」には、トーストアートが世界的に有名な佐々木愛実氏による陶芸作品「おかめ花瓶」が展示され、「ism.」総合ディレクターの大薗彩芳氏がその一つひとつに対峙して、花を活けました。自然のままの草花や植物の美しさを生かした仕上がりは圧倒されるほどに自由で大胆で、いけばなの楽しさが伝わってくるよう。一体ごとに異なる“個”を宿した花瓶にはプロフィールが添えられ、それを読むとさらに世界観が広がる仕掛けに。

 

東京建物八重洲ビルB1「八重仲ダイニング」前に登場した「八重仲ダイニングGallery」では、FLOWERをテーマに一般公募し、受賞した17作品をデジタル展示。デジタルギャラリー・HACKK TAGの技術を活用したもので、本格アートをデジタルで気軽に楽しめるように。こちらは4月19日まで展示予定。

 

 

写真/米山典子 文/岡崎恵美子